1.失踪

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1.失踪

 俺は小柴(こしば) (あきら)。都内で私立探偵をやっている。  今、事務所に依頼人が来ている。  依頼人の名は、神山(かみやま) 聡美(さとみ)。失踪した彼氏を捜すため、俺の事務所へとやってきた。  彼氏の名は、小宮山(こみやま) (たける)。職業は区立図書館の警備員だ。  依頼を引き受けることにした俺は、彼が勤めている区立図書館に足を運んだ。  俺は女性職員に声をかける。 「私、小柴探偵事務所の者ですが、小宮山さんについて少々お話を伺えないでしょうか?」 「小宮山さんって、警備員の? そしたら、警備室へ行かれてはどうでしょうか?」  俺は警備室へ向かう。 「小宮山ですか? 一週間ほど姿が見えないが、何か遭ったんですか?」 「それを今、調べているのですが」 「僕にできることがあれば協力しますよ」  俺は警備員に話を訊くことにした。 「小宮山さんなんですが、失踪する理由に心当たりはありますか?」 「小宮山は失踪したんですか?」 「ええ」 「……すみません。わかりかねます」 「職場での雰囲気はどうでした?」  小宮山は仕事には真面目に取り組んでいた。正義心も持ち合わせており、悪いと思ったことに関してはすぐに対応していたという。  警備室内を見渡す俺。 「やけに人が少ないですが?」 「常駐は二、三人でやってます」 「そうなんですね」 「刑事さん、小宮山の居所、早く見つけて下さい」 「私、刑事じゃないんです」 「え?」 「小柴探偵事務所の小柴です」 「探偵さん?」 「はい」 「依頼があったんですか?」 「そう言ったことにはお答えできかねます」 「そうですか。では、何かわかったらお知らせ下さいますか?」 「構いませんよ」  俺は「ありがとうございました」と、頭を下げると警備室を出た。  受付に行き、話を訊く。 「さきほどはどうも」 「今、警備室で話を伺ってきたのですが、小宮山さんの足取りは掴めませんでした」 「そうですか」 「小宮山さんについて何か気づいたことないですか?」 「気づいたことですか? これと言って特に。あ、そういえば、近々大金が入るかもって、ラインで言ってましたよ。なんのことでしょうか?」 「大金、ですか……」  俺は警視庁の捜査一課に電話をかけた。 「おお、小柴くんか。どうしたんだ?」 「小宮山 健という男性について、調べてもらえないでしょうか?」 「どういうことだね?」 「うちの事務所に捜索依頼があったんです」 「そうか。で、その小宮山さんとは?」 「千代田区立図書館の警備員です。一週間ほど前から姿が見えないんですよ」 「ちょっと待ってて」  電話の向こうでキーボードを叩く音がする。 「被害者リストに小宮山さんがヒットしたぞ」 「被害者?」 「ああ。練馬区内で遺体で発見されたんだ。現場の状況から見て殺人と判断されたみたいだな。所轄が捜査してるみたいだよ」 「住所わかる?」 「メールする」  メールが届く。 「ありがとうございます」  俺はメールに書かれている住所へ足を運んだ。  現場は閑静な住宅街の一角にある小さな公園。  制服警官が現場の出入りを制限している。  俺が入ろうとすると、警察官が制止する。  当然といえば当然か。 「小宮山さんはここで亡くなったんですね?」 「……!」  驚く警察官。 「君、どうしてそれを?」 「警視庁の友人が教えてくれたんですよ」  俺は警察官に名刺を渡した。 「探偵?」 「うちに小宮山さんを捜すよう依頼があって。ちょっとだけでいいんで、現場を見せてもらえますか?」 「うーん……」 「お願いします」 「仕方ありませんね。今回だけです」 「ありがとう」  俺は現場に足を踏み入れた。  鑑識作業の後なのか、遺留品などは持ち去られていた。  それでも見落としはないか、俺は辺りを調べた。 「うん?」  俺は茂みに手を入れ、それを取り出した。  弁護士バッジ? なんでこんなところに。  俺はバッジの裏を見た。  番号が書かれている。  俺は日弁連のサイトで番号を検索した。  伊沢(いざわ) (つよし)の名がヒットした。  俺は伊沢がいる法律事務所を訪問する。 「探偵さんが何か用?」 「実はバッジを拾って」  俺は先ほど拾ったバッジを伊沢に見せた。 「どこにあったんですか?」 「練馬区の住宅街ですよ。小宮山 健の遺体が発見されたね」 「……………………」 「小宮山さんとはどういう関係ですか?」  俺は質問しながら、事務所内を見渡した。  ベランダに根元の葉っぱが茎に巻き付いたケシの花が栽培されている。 「それは……」 「あの日、現場で被害者を殺害したんじゃないんですか?」 「な、なにを証拠に?」 「図書館の司書館にお伺いしました。あなた、小宮山さんに脅迫されていたんじゃないですか? アヘンの件で」 「……!」 「司書館が言ってましたよ。小宮山さんが近々大金が手に入るって言ってたって。ベランダのケシの花、アヘンですよね。殺害の動機としては十分成立すると思いますが?」  脱力する伊沢。 「殺しなんてするもんじゃなかったね」  伊沢が立ち上がる。 「警察に行くよ」  伊沢はそう言って、練馬警察署へと足を運んだ。  俺は神山に会い、調査結果を報告した。 「そ、そんな……」  その場に崩れる神山。  神山は涙が枯れ果てるまで泣き続けた。
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