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 『桜の館』とは、永丘高校近辺では有名な豪邸だ。樹齢の長い立派な桜の木があるため、近隣住民にそう呼ばれている。  またの名を『厩戸邸』──つまり、鱗音の彼氏はその館に住む“お坊ちゃま”だ。  だが最近、その館が火災で全焼。家主の厩戸一家が、焼死する大事件が起きた。厩戸吉人君は、事件唯一の生き残りである……の、だが。 「疑われてる?放火犯として?」 「そーなの!」 「警察に?SNSで勝手に騒がれてるとかではなく?」 「警察に!!」  なるほど、それは穏やかじゃない。そもそも鱗音はSNSの噂に流される性格ではないので、ただの噂なら最初から相談などしてこないだろう。 「でも捕まってるワケじゃ無いんなら、容疑が晴れるまで耐えるしかないんじゃねーか?」  捕まっていない、つまり明確な証拠は無いということ。だとすれば、捜査が進んで疑惑が解けるのを待つしかない。思ったことをそのまま口にすると、鱗音は露骨に不機嫌な顔をする。 「私だってそう思ってるよ?でもさぁ!この頃ほぼ毎日のように話を聞きに来てるっていうか、何度も同じこと聞かれてんだよね!?ね!?」 「う、うん、まあ、そうなんだけど…………仕方ないよ。正直、僕もお兄さん達の言う通りだと思うし。」  吉人君は鱗音と対照的な、見るからに大人しいタイプだ。正反対な性格であることで、バランスが保たれている感じ。妹が良好な恋人関係を築いているのが知れて、兄としては安心だ。加えて、彼女の憤慨にも納得できる。初対面だが、確かに彼が家族を殺す人間にはとても見えない。 「仕方なくない!デートの時間が減る一方!いい加減、も~ぉ耐えらんない!!」  どうやら鱗音は、恋人同士の時間を奪われていることにおかんむりのようだ。吉人君が疑われていることより、そっちのほうが問題らしい。吉人君の腕に抱き着いて、ギャーギャー喚いている。我が妹ながら、我欲の主張が激しい。 「このまま国家権力に貴重な青春の時間を奪われて黙ってられるかーっ!早急に吉人くんを無罪にして、さっさと終わらせたいの!手伝って!!」 「そう来たか…………。」  思わぬ難題に、俺は竜衛と顔を見合わせる。困惑している俺に対して、竜衛はどこか楽しそうな顔をしていた。 「高校生探偵になっちまうか?」  予想はしていたが、竜衛はこの状況を面白がっている。昔から、身の回りのスキャンダルに首を突っ込んではかき回すのが好きなのだ。いつもカオスな事態に巻き込まれる弟の身にもなって欲しい…………が。  俺自身“シスコン”の自覚がある兄、このまま妹の相談を有耶無耶にする気は無かった。 「鱗音を一人で動き回らせるよりは、まあ。」  かくして俺たちは、妹の青春のために立ち上がったのである。
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