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確率というのは不思議なものでどんなに低くとも当選枠が存在していれば確率通りに確実に当選する
例えば32人で集まってペアを組みじゃんけんをして、勝ったもの同士でまたじゃんけんをして、そこで勝ったも同士でまたじゃんけんをして……とやると32人のうちの一人がかならず五連勝することになる
誰が五連勝するかは32分の1だが、五連勝する人間が32人のなかから現れる確率は100%だ
だから例え70億分の1だろうとそういう当たり枠が存在するのであれば当たる奴は当たる
今回の場合それが俺だったというだけの話だ
「我々は宇宙人なのですよ」
そういって彼女が白い壁に触れると部屋全体が透過されたのか、はたまた部屋全体がモニターになっていたのか、すうっと暗闇が広がり青く美しい巨大な球体が目の前に現れる
ユーラシア大陸、日本列島、オーストラリア
それは瞬く間に小さく遠ざかり角度が変わると今度は足元から荒涼とした月の海が浮かび上がる
「我々にはあなた方地球人を見定める必要があるのですよ」
我々と彼女はいうがここには彼女一人しかいない
凛とした青色の目の10代半ばの少女。それが彼女の印象だった
白を基調に青のラインが走る襟の立ったロングコートを羽織る彼女は銀色が反射する長い髪をくるりと指に巻いていう
「もしあなた方が我々にとって害のある存在であるならば駆除しなければなりませんから」
冷徹な瞳に撃ち抜かれ俺は声を絞り出す
「駆除だと?」
「ええ。とはいえ不安がる必要はありませんよ。あなた方程度の文明力であればほぼほぼ何事にもなりません。目を通しておくかといったレベルですので」
「……」
夢の中でこれは夢だと気付くことはほとんどないし気付いたら大抵強制的に目が覚める
しかし今はこれが夢だと思っても布団の中で目覚めたりはしない
状況を整理するに俺は今いわゆるUFOに連れ去られて宇宙空間にいる
しかし記憶ははっきりと地続きになっている
仕事を終え家に帰り、車に乗り峠をのぼり、展望エリアで趣味の天体観測をしていると突然謎の光に包まれて……そして見知らぬ真っ白な部屋の中で彼女と出会った
彼女はいった
俺は彼女がこの星の文明を知るためのパートナーに選ばれたのだと
「では一旦お別れをしましょう。私には準備がありますしあなたにも住居に私を招く準備がいるでしょう。尚この件を他人に相談したりはしない事です。その場合あなたは当然のこと相談を受けた方も駆除の対象となりますので」
視界が白く染まり一転夜の闇に包まれる
俺は峠の展望エリアで直立していた
(仕事疲れで一瞬意識が飛んだのかもしれない)
夢とはどんなに複雑で長いものでもほんの一瞬の間に見ている可能性があるという
夢の尺は現実で流れている時間とはまるで合致していないという説だ
それは大いにありえると思う。夢とはつまり脳の中の想像の世界なのだから
だからきっとさっきのは夢で
そう自分に言い聞かせながらスマホを取り出して時間を確認する
21:30。大体それくらいのはずだ
なのに
そうでなくてはならないのに
目の前の現実がそれを否定する
0:04
駆け巡る闇が、背筋をツゥーっと撫でたような気がした
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