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「さて自己紹介は終わったわけだけど、お兄ちゃん、勘違いはしないでよね」
「なにをだよ」
「私が理想の妹なのはあくまで私の正体を知らない地球人に対する対外的な処置なの!つまり私の正体を知ってるお兄ちゃんの前では理想の妹を演じる必要なし」
そういって宇宙人は俺に差し出した弁当を取り上げ
「これは私が食べる。異星の料理を味わうのは趣味の一つ。頂きます」
そういって彼女はハンカチをほどき弁当の蓋を開く
中身は卵焼きにたこさんウインナー、唐揚げとご飯が詰まったまさにテンプレのようなザ・お弁当だった
彼女は箸で黙々と弁当を食べる
俺はそれを眺めているわけだが、居苦しいので一つ質問をした
「その弁当って自分で作ったのか?」
「まさか。お弁当に関連するデータをすぃえるぴじーに読み込ませて再現したんだよ」
「すぃえるぴじー?」
「気にしなくていいよ。100万年は後の技術だから」
そういって宇宙人は箸を進め
「大したことないな」
「そりゃただの弁当じゃそうだろ」
「私の見た本では涙を流して喜んで食べてたけどな」
「それは好きな女子の手作り弁当でも食ってる場面だったんじゃないか?」
「それはそう。私は恋愛ものを好む。ただ食べてみてガッカリ。まあこの星のレベルじゃこんなもんかな」
「なんだかトゲのある言い方だな」
「こんな事本当はいっちゃだめなんだけどさ」
そういって宇宙人は食べかけの弁当に蓋をし
「こんな低レベルな星、目を通す価値すら感じてないんだよね。正直ババ引いたなって感じ。この星を駆除対象にする可能性なんてまずないからね。はあ。もっと高度な文明だったらそれでも楽しみが色々あるんだけどな。こんな猿の方が近いような文明じゃね。まあ私は真面目だから仕事はちゃんとやるけどね!お兄ちゃん!お茶」
「……お茶なんてねーよ」
「はあ!?そんなことある!?」
「あるんだよ。一つ学べたな」
もう俺の中には宇宙人に対する恐怖なんてものは微塵も残っていなかった
友好的かどうかは知らないがこの星が侵略されることはないだろうという確信はある
「あんたたちの星の文明ってどのくらい進んでるんだ?この星と比較して」
「陽葵だよお兄ちゃん」
そういって宇宙人は口をつぐむ
「陽葵たちの星の文明はどれくらい進んでいるんだ?」
「それはね」
「うん」
「いえないんだなーこれが!」
「……」
「いい?お兄ちゃんは私に対してこの星のことを教えるのが役割なの。私たちのことを聞くのが役割じゃないの」
「俺に得はないのか」
「それは勿論あるよ」
「あるのかよ」
「うん。仕事が終わったら何でも願い事を一つだけ叶えてあげる」
「なんでも……?」
「あ、先にいっとくけど私の体に性的ないたずらをしたいとか言い出したらその瞬間に原子になって大気中をさ迷うことになるから礼節はわきまえてね」
「そんなこといわねーよ!た、例えばカネが欲しいって言ったら……いくらまで出せる」
「うわあ。いくらまで出せると来たか。なんだか汚いね。地球人ってこうなのかな。マイナス1ポイントだね」
「えっ」
「あはは。冗談。別にお金を払うことは可能だけど、経済のバランスを崩すような額は渡せないし、不自然な大金は身を滅ぼすよ?まあ宝くじに当たったって事で五億円くらいがパッとわいても自然な額だよね」
「ご、五億」
ごくりと唾が喉を通る感触があった
この宇宙人をしばらく同居させて質問に答えるだけで五億
うますぎる!が、待て!
「ちょっと待て、ふと思ったんだが一体お前は」
「陽葵」
「陽葵はいつまで地球にいるつもりなんだ?もし100年や200年なんて言われたら報酬が支払われる前に俺は死んでしまう」
「いや、そんな無茶苦茶なこといわないって……そういう詐欺でもあるの?やっぱりポイントマイナ」
「違うんだ!そうじゃないんだ。陽葵とは時間の感覚が違うんじゃないかと不安に思っただけなんだ」
「ふうんそう……まあ三ヶ月くらいじゃないかな」
「三ヶ月……」
三ヶ月で五億……うますぎんだろ
俺は神に感謝した
確率というものに感謝した
目の前の宇宙人に感謝した
俺を選んでくれて本当にありがとうと
だがこの時俺はまだ気づいていなかったのだ
確率というものは、どんなに低くともそれが0でない限りはあり得るのだということに
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