浜辺のダッチワイフ

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 ビニール袋を開けようとしたところで、ふとした疑問が頭をもたげる。漂流物とは見つけた者が勝手をしていいのだろうか?それとも遺失物として届けた方がいいのか。はたまたゴミなのだから拾った者の好きにしていいのか。私はためらいを振り払い開封した。都合のよい思いこみかもしれないが、彼女の切れ長の眼が開けてくれと訴えているような気がしてならなかったのだ。 「いいのかな~怒られても知らないよ?」  君はそう言うが、そもそも彼女をこの海に流した誰かは、ご丁寧にビニール袋に密閉してノートとHDを流したのだ。誰にも見られたくないのであればそんなことはしないだろう。きっと誰かに見てもらいたくて……そんな風に考えるのはさすがに自分の行為を正当化するための思い込みだろうか。  君を無視して大学ノートを開いた。ざっと見たところどうやら日記のようだ。びっしりと文字で埋まっている。あまり字は上手くない。普段字を書く習慣のない人の文字という印象だ。にもかかわらずこの文字量。迸るなにかを抑えきれずに文字としてしたためているかのよう。迸るなにか……一緒に流されたのがダッチワイフなだけに、性欲というキーワードが頭から離れない。日記を読むことにためらいを覚えてしまった。  彼女との桃色性生活を読まされるのはたまらないので、ノートは後回しでHDを覗いてみることにした。持っていたモバイルPCに繋げてみる。 「浜辺にノートPCって、情緒があるんだかないんだか。潮風にやられちゃったりしないといいけど」  君はそう言ったが、私としては潮風なんかよりも得体の知れないHDに繋げるほうがはるかに怖かった。性質の悪いウイルスにやられたりしないといいが。 「さてさて鬼が出るか蛇が出るか」
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