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君は少し寂しそうな顔になる。それはきっと君と私が今日でお別れのためにこの海にやってきたから。
私は漁師としてこの海で長いこと一人で働いてきた。最新のソナーやドローン、収穫エリアを予測できるAIに力を借りることで。いわゆるスマート漁業というやつだ。
しかし海とは孤独だ。いつしか私は海の孤独に耐えきれず頭の中で君を生み出した。海にいると君が私へと話しかけてくるようになったのだ。
初めのうちは楽しくもあったが、やがて恐怖へと変わった。あまりに君とのおしゃべりが楽しくて、妄想に憑りつかれたまま現実から遊離してしまう自分を感じてしまったのだ。
だから私は彼女との決別を決意し、彼女が産まれたたこの海を別れの場所として選んだ。
そのはずだった。
「どうしたの?お別れの挨拶とかないの?」
「老人とダッチワイフが一緒に生活できたんだから、妄想の友人と一緒に生活するのも悪くはないのかなって」
博士たちの生活を覗き見たことで、私のなかにそんな気持ちが芽生え始めていた。
君はにっこり笑う。
「わたしたちはどこに流れ着くんだろうね」
「漂流し続けるのも悪くはない」
私は彼女と肩を組み、まるで二人三脚でもするみたいに浜辺をどこまでも一緒に歩いた。
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