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疑惑が芽生えたのは、ずっと前からだった。
だけど証拠はなく、彼を信じたい気持ちが私をずっと曇らせていた。
「昨日、返事遅かったけど。何か忙しかったの?」
「ごめん。ゲームとかしててさ」
昨日とつけたけれど、ここしばらくずっとそうだった。夜七時くらいから、蓮はメッセージを返してくれなくなる。
今日は二人して喫茶店に来ていた。チョコクロワッサンをほおばる彼も愛おしいから、私はそれ以上気にしない。「ゲームばっかだと寂しいな」と心の中でつぶやく。
誕生日に彼の家へ遊びに来た。もちろんお祝いのためで、『遊びに』は建前。
蓮は大学の近くで一人暮らしをしていたが、訪れるのは一ヶ月ぶりだ。二人して喫茶店巡りが趣味ということもあるし、あまり入り浸っても悪い。
相変わらずきれいに掃除されている部屋をながめて、実家暮らしでいつも散乱している自室と比較してしまう。彼は器用でまめだ。
「どうしたの凛々花?」
「私も家事頑張らないとなって」
今みたいに、私の浮かない顔にすぐ気づいてくれる。
「普段やっているかどうかの違いだって。頑張らなくても大丈夫だよ」
「そうかな。でもそれなら普段からやらなきゃ」
将来のためにも頑張ろう、と決意をする。蓮に「お茶入れるから待っていて」と言われて私はベッドに腰掛けた。
「あっ、私が入れるって言えばよかった」
やる気を出したばかりのはずが、気の利かなさに泣けてくる。そんな私は、机の上に見慣れぬものを見つけた。
マイクだ。ゲームをするとき、使うのだろう。通話しながら一緒に遊ぶのだと蓮に聞いたことがあった。
けれど、前に見たマイクとは明らかに変わっていた。
ボールペンみたいに細かったPC用のマイクが、スタンド付きの本格的なものになっている。カラオケにあるやつみたいな。
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