第二章  昨日の敵は、今日も敵だ!

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 「なんでもラテン系のアメリカ人で、日本人とのハーフだって聞いたわ。とっても年上なんですってよ」  もしかしたら、優姫は後妻業(ごさいぎょう)のオンナかも知れないと仄めかしておいた。こういう話の方が、保護者会の穏健派を震撼とさせるだろう。  「純愛になんかさせないわ」、グフッと嗤いがでる。室蘭優姫を退学に追い込むまで、追及の手を緩めない様にと、父親の背中を押し続ける気が満々だった。  その甲斐あってか、三日ほどたった金曜日の昼過ぎ。  校長室の応接セットに座った五島久志氏が率いる保護者会の重鎮たちが、気焔(きえん)をあげていた。  「二学年に在籍している室蘭優姫のスキャンダルを、校長先生はどう思っていらっしゃるのかしらッ」  「これは由々しき問題ですわ」、社長夫人の相模女史が口火を切った。  「ワタクシも聞きましたわ。同棲相手は相当な高齢だとか」、江戸川夫人が眉をひそめる。  「後妻業・・と言う事ですかな?」、夫の江戸川医師が結論を導き出した。  五島派の面々の手厳しい糾弾にあって、校長先生は息も絶え絶え。最新鋭のミサイル攻撃にあって、防衛網がズタボロ状態だ。  窮地に陥っている。  必死で地対空ミサイルの配備を目線で教頭先生に訴えた。そこで教頭先生のショボい援護射撃が始まり、ぷつぷつと敵の盾に微かな穴が開く。  「室蘭優姫さんは、天涯孤独の身の上で。父親の知り合いだった方の家に、引き取られていると聞いております」、額の汗を拭きながら抵抗を示した。  「誰からお聞きになったのかな?」  五島氏が重々しく、口を挟んだ。  「僕が聞いたところでは、室蘭君は引き取られているのではなく」、嫌みな一呼吸を置いて。  「同棲しているとか。つまり男と女の関係だな」、一気に罪状を読み上げた。  「まぁ~ぁ・・・」、江戸川夫人がハンカチを額に当てると気絶する演技に入った。慌てて椅子から起ちあがった江戸川医師が、妻の身体を支える。  「しかし。これは後見人の周防弁護士から、室蘭優姫さんの入学時に伺ったお話しですから・・私どもとしてはそのぉ~・・その様な事でないと。そう思っておりますのです」、しどろもどろの校長先生の弁護が続く。  弁護団の脆さは一目同然。  「それではこうしましょう」  「室蘭という女生徒は毎日、車での送り迎えだとか聞いておりますぞ。いっその事我々で、その車を付けて行きませんかな」、江戸川医師が解決策を提示した。  「校長先生の話が本当なら、室蘭君は無罪放免だ。ソレで宜しいな」、とゴリ押し。その後ろをついて走る車には、我社の車を使いましょう。運転手が優秀だから、追跡に失敗したりしないと、五島氏が保障した。
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