第一章  十六歳になった日

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 そっと伏し目がちに、男を観察。三十代の半ばくらいだろうか、若いわりに靴もコートも金のかかった装いだ。もっと傍に歩いて来るから、あわてて顔を伏せるとさらに脇に寄った。  男が枯れた花束を横に避け、手に持った大きな薔薇の花束を歩道に置く。供えるとかいう感じではなく、ただ無造作に置いた。  目鼻立ちは整っているが、優しい甘さなど、どこにも見当たらない顔立ち。精悍と言うよりはキツイ印象だ。身体つきも、ジムで鍛えているのがありありとうかがえるような筋肉質。  しかも180センチを超える長身だ。  「コイツは戦士だ」、ふとそう思った。百戦錬磨の強かさを身に纏い、血に塗れた闘いに慣れている感じがムンムン。コイツは冷酷な判断を平気で下せる種族だと思った。  背筋が寒くなる様な、酷薄な笑みを浮かべると。  「七重(ななえ)」  突然に、冷たい声で私の名前を呼んだ。  「どうしてこんなッ」、声にならない音が続く。マヌケな死に方をしたんだと、男の口が動くのを見た。私が死んだ辺りを、キツい眼差しで睨んでいる。  「?・・」、それしか出てこない、摩訶不思議なシチュエーションだ。  次に耳に入った言葉に、もっと背筋が凍った。  男が呟く。  「お前にまだ、俺は何一つ仕返しをしていない。俺の十五年間の怨みを、一体どうしてくれるんだッ」  鼻孔を膨らませて、激しく憤っている。  (コイツは誰だ?こんなお金持ちに知り合いなんかいないし、恨まれる様なことをした覚えもないぞ)  たぶんだが、私の困惑した様子に気が付いたのだろう。歩道の隅に立つ私を、上から下までじろじろと見回した後で。  「お前が生き残った女子高生か」、不愉快そうな視線を突き刺した。筋肉質の体が、意味不明な怒りで強張っている。  「ひ弱そうな女だ」、吐き捨てるように呟くと、私の手を掴もうとするから。慌てて後ろに飛び退った。  必死で睨む少女のひ弱さが、男には我慢できないほど苛立だしいモノらしい。  その時だった。  慌てて走り寄ってきた三浦看護士が、私と男の間に割り込んだ。  「祥子ちゃんに何かご用ですかッ」、キツク男を睨み付けると、私を背に庇った。  「祥子ちゃん、帰りましょう」、私の手を引いてその場から連れ出そうとしたのだが。男に行く手を阻まれた。  わずかな動きだったが、見事に三浦看護士の動きを封じたその男の動きに、私は驚いて目を見張った。
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