第一章  十六歳になった日

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 これでも一生懸命に、五十七歳になる今日まで生きて来た。  二十年も母の看護に追われて独身のままだけど、弟と妹を育てるのに必死で恋とは縁遠い人生だったけど。  『それでも一度くらいは、素敵な恋に出逢えもいいじゃ無いか!』、空に向かって叫んだ。  天使の降臨を3Dホログラム化したような現象が起こったのはその時だ。虹色の光が天空から降り注ぐ。  ショパンなのか、モーツァルトなのか知らないが。優しい音楽が空に満ちる。羽根の生えた裸の天使こそいないが、薔薇の花びらが舞い落ちるなか。  美しい白系アーリア人とおぼしき金髪碧眼の青年が、竪琴を弾きながら降臨して宙に浮いていた。  【今日のミッションは、どちらか一人の魂を天国に持ち帰るのが僕のお役目】  【どっちかな?】  意味不明な言葉だが、ホストも顔負けのイケメン天使様のお口から出た【お言葉】だ。うやうやしく承った。  ちょうど下界では、救急車が到着して救急処置が始まったようで。救急車には少女から運び込むようだが・・何故か私の身体に白い布が掛けられているではないか。  『死んだのかぁ』、ため息が出た。  『仕方がない』、オンナは諦めが肝心だ。  お迎えがイケメン天使様だったのが、せめてもの慰め。  『ハイッ』、勢い良く手を挙げると、一歩前に出た。  天使が手を差し出すから、イケメンに手を取られる初体験にドキドキ。その一瞬の躊躇いが、一生の不覚になるとは。  いきなりだった、少女の魂がワタシに体当たりを噛ましたのだ。ヨロッとよろけたワタシを押し退けると、天使様の手を少女がシッカリと握った。  『死んだのはアタシ。アタシの身体はこの人にあげてッ』、必死の形相で叫んだ。  【僕はどっちでもいいけど】、何ていい加減な天使なんだ。  『いい加減な仕事をするんじゃない。それでも天使か!』、怒りに燃えるアタシの言葉が空に響き渡る。  イケメン天使が爆笑した。  【ねぇ~、死人の魂を運ぶのは死神の役目だって知らないの?】  その言葉に唖然とする。  【あんた達に合わせて、ロマンチックに演出して遣ったんだけどな】  又しても、いきなりだった。  音楽も虹色の輝も、当然だが薔薇の花びらも一瞬で消えた。無味乾燥な白い雲がたなびく空間に、ぽっかりと浮かんでいたのは金色の雲に乗った白髪の死神くん。  少女の手をしっかりと握り、逃げない様に捕まえている。
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