第二章  昨日の敵は、今日も敵だ!

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 それはクロワッサンにアーモンドクリームをタップリ塗って焼いたお菓子で、プロの味だった。彼女が淹れてくれた紅茶にも同じような感想を持った。  「ねぇ、祥子ちゃん。自分に関する記憶がないからと言って、スマホの知識まで消えるなんてことは無い筈よ」  三浦看護士の言葉に、祥子が困った顔をする。彼女が言うには、学校を休んでいた間の着信履歴を取り出したりしているうちに、学校のクラスメイト達がラインでやり取りする祥子の悪口や陰口を見てしまったらしい。  「ショックだったの・・」、小さく震えると、スマホを差し出した。  「見ても良いの?」、問いかけに黙ってうなずいた。  三浦看護士がそこで見たものは、信じられないくらい悪意に溢れたショートメールとスタンプの山。目を覆いたくなるような残酷な言葉が飛び交っていた。  若さと言うのは時として、残酷な仕打ちをよく考えもせずにやってしまうモノらしい。  「これって、クラスの連絡用よね?」  「たぶんそうです」、哀しそうに答える。  「怖くて・・」、その後で目まいがしたのだという。記憶にあるのはソコまでで、気がついたら朝になっていたと小さな声で話をつづけた。  「目覚めたのは、ソファーの下のカーペットの上でした」、ボソッと呟いた。一晩中、ソコに転がっていたらしい。  余程ショックだったのだろう。  それ以来、スマホの操作がまるで解らなくなったと言う。本棚から取り出してきて見せたのは、スマホの入門書だった。  どうもその本を見て、なんとかスマホの操作を思い出そうと頑張ったらしい。  「でも一人でスマホを操作していると、涙が止まらなくなるんです」、今度はポロポロと涙がこぼれ落ちる。  「いいわ、一緒に思い出しましょう。手伝ってあげる」、優しい声で励ました。  その日からずっと、時間に余裕がある限り若園祥子のマンションを訪ねては、スマホの操作や色々な機能を一緒に試した。今更のようなツイッターやインスタグラム、フェイスブックの説明もした。写真や動画の撮り方、保存と送信の仕方も教えた。(三浦看護師としては。色々な記録を残すことは、彼女の治療に役立つと思っただけなのだが)  「何かあったら、躊躇わずに私に送信してね。きっと助けに行くから」  一言を添えた。  何気ない彼女の一言だったが、それは世にいうところの虫の知らせと言うモノだったのかも。(その後のストーカー事件に、動画の送信が大いに役立った。もっともその時は、ふ~ん・・くらいな感想だったのだけど))  その他にも。便利なアプリの追加や、高校生活には欠かせないお友だち登録のやり方も教えた。その中には最近の必需品、スマホ決済やQRコードを使ったお買い物のやり方も説明した。
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