24人が本棚に入れています
本棚に追加
私は岩村七重で、若園祥子の記憶も知識もまるで持ってなどいない。(いきなり五十七歳が十六歳になったのだから、今どきの高校生に化けるのがどれほど大変だったことか!)
そこで考え出したのが、可哀想な記憶喪失の少女になり切る姑息な芝居だった。切羽詰まると人は大胆になる。
心療内科の有馬女史が、相当な喰わせ者だと言う事は。入院中に診察を受けている頃から、人生経験豊富な七重は見破っていた。
彼女の催眠療法で眠ったことなど一度もない。寝た振りで様子を窺ううちに、催眠術のサの字も満足に熟せないと知ったのは大きな収穫だった。
ソコを利用しない手はない。
三浦看護士の援助を引き出すために、ポロポロ涙を流したり。有馬女史の催眠療法中にまた、岩村七重だと名乗ってやったりと。
色々と姑息に動き回った。
でもラインで酷い中傷が飛び交っていたのは本当のことだし、ほとんど天涯孤独みたいな生活なのも本当のことだ。
その甲斐あって、三浦看護士の助けを借りることに成功。何とかハードルの高い高校生活に入りこめたのである。しかもワタシには友達が必要だと言って、この間まで現役の女子高生だった看護師見習のお嬢ちゃんたちまで紹介してくれた。
その心使いに、不覚にも泣いた。
自分の猿芝居に、心が痛まなかったと言えば嘘になる。
だが、しか~し。
恋のエンジェルになったのだから、ワタシの猿芝居もチャージ済み。山口医師と三浦看護士は何処から見てもお似合いと言う事で。瓢箪から駒が出たのだから、エッヘン!
次は五島明美の成敗だ!容赦はしない。「控えおろう」と、どっかの爺ィみたいに三つ葉葵の印篭を出したいところだ。
最初のコメントを投稿しよう!