第二章  昨日の敵は、今日も敵だ!

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 ところで。  逆襲はなにも、七重だけの専売特許という訳ではない。思いもかけないところで怨みを買うのが世の中と言うモノ!  しかもそのオンナの、若園祥子への悪意に満ちた逆襲には【マエ】がある。  昨年の暮だ。  祥子へのクリスマスプレゼントにオンナが用意したのは、ビルの屋上から飛び降りた自殺男の下敷きになるという事故だった。  その事故も、実は彼女が書いたシナリオを実行に移しただけの、現実のサスペンス。偶然にもビルの屋上から人が降ってきて、下を歩く歩行者が下敷きになる確率など、実際にはほとんどゼロに等しいだろう。  それがピンポイントで、ビルの前を歩いていた二人の人間を下敷きにしたのだ。しかも岩村七重があの場所にいたのは全くの偶然だが、若園祥子は違う。  あの日の祥子は、伊豆家でたった一人の味方である兄の彬と。ビルの二階にあるカフェで、久しぶりにお茶をした帰りだった。  オンナはその【マエ】の実行にあたって、実家の伝手を辿って、半グレをまるでキャベツか白菜のように気軽にまとめ買いした。  実行犯はその半グレグループだ。ビルの中から出てきた祥子をめがけ、借金で雁字搦めに縛って置いた小さな町工場の社長を半ビルの屋上から突き落としたのだ。  祥子の上に落とすように言い付けておいたのに・・後ろを歩いているどこかの中年女に直撃。祥子はあおりを喰らっただけ。脚に少しばかりの切り傷と打撲の軽傷だった。  「オッサンが勝手に、あの中年女の上に落ちて行ったんだ」と、半グレのリーダーが泣きながら命乞いをした。  そんなご託、許せるものか。  しくじった半グレどもはまとめて、伝手が用意した掃除屋が処分した。  理由は簡単。  「口を利かないのは死人だけです。秘密はこれで完璧に守られます」と、伝手が言ったのだ。  オンナの実家はとっても裕福な資産家で、何時でも言いなりになる人間を創る為に裏で金貸を生業にしている。つまり闇金融だ。  伝手は、実家に仕える番頭で。怜悧な印象の剃刀のような男である。  この番頭は三代目、オンナが求めるなら情夫になるのも厭わない忠犬だ。三国志に出てくる諸葛孔明も顔負けので軍師で、実家の大事な金庫番でもある。  その策謀に塗れた男が、寝物語に過ぎなかったオンナのシナリオを危険な現実に変えて見せた。  落石代わりに使った哀れな中年男も、祥子を始末する為に番頭が用意した道具。多額の借金が返せず、何でもいいなりになると言う証文まで書いた哀れな貧乏人だった。
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