第二章  昨日の敵は、今日も敵だ!

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 「やがては日本にも、必ず海外のようなカジノが建つ日が着ます。その時の為に見聞を広めねばなりません」と、ボンボン育ちの明知の耳に、同行した社員から心地良い誘惑を吹き込ませると。  オープンしたばかりの新しいカジノを選んで、香港やシンガポールへの出張の度に連れ出させた。  「資金は社長から預かっております。ご安心ください」と社員に唆され、幾度もそんなカジノ通いをするうちに。博打とは恐いもので、スッカリ明知の中で常習化した。麻薬と一緒、最初は少しづつだが、やがて深みにはまっていく。  底なし沼だ。  気が付いた時にはどっぷりと、明知は博打の罠にはまっていたという訳だ。勿論だが、会社のお金に手を付けるようにもなる。とにかく賭博依存症は侮れない。  その結果が、祥子が記憶喪失になってすぐに開かれた家族会議だった。さすがは番頭だけのことはある、シッカリと裏から手を回して明知を廃嫡に追い込んだ。  「美登里さまは、禍の及ばぬところで見物なさいますように」、番頭からの忠告を受けて、オンナは家族会議を欠席した。  記憶喪失になった祥子を見れなかったのは残念だが、火の粉が飛んできては七年もかけた陰謀が水の泡。  大人しく、何時ものように優しい美登里奥様を演じてみせたのだが・・勘のいい三男の彬は気が付いているらしい。  「あの子もそろそろ、始末しなければいけないわねぇ」、昨夜も番頭の腕のなかで愛欲に溺れ乍ら、ふと睦ごとにそんな話をした。  「欲深いお方だ」、素肌を滑る男の手が止まる。肩に唇を這わせると。  「考えておきましょう」、また男の手が美登里の肌をユックリと滑り、五十八歳とは思えぬほど見事なプロポーションを誇る身体を楽しみはじめた。(これも超高級エステサロンの魔術)  男は三十代の後半で、オンナとは二十歳の開きがある。  だがそんな事を気にする様な女でも無ければ、男でもない。二人の情事は、うたかたの夢。その証拠に、男は女に隠れて長女の絢香ともそう言う関係を持っている。素知らぬ顔が出来る、そう言う男だ。  「祥子さんはどうしますか」、番頭がしばらくしてから、また耳もとで囁いた。オンナを刺激してみたのだ。  「そうねぇ。お前が言っていた、あのストーカーは如何したの?」  「悪いお方だ、そんな恐ろしい企みをもうなさるとは」、男の唇が背中を這う感触に息を吸う。ウッフッフと嗤うと、男の首に腕を撒き付けた。  「あの子にはねぇ、うんと不幸になって貰いたいのよ。紗耶香の邪魔にならないようにね」、オンナは本気だ。  つい最近になって。あの金融業界の狸オヤジが、飛んでも無い縁談を持ってきた。あろうことか紗耶香の未来の夫にと目星を付けておいた土方蒼汰が、若園祥子との見合いを望んでいるというのだ。  「認められる訳がないわ」、軽く考えていたのだが。土方蒼汰のゴリ押しがハンパじゃないらしい。  「始末してよ」、低く呟いた。
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