第二章  昨日の敵は、今日も敵だ!

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 「七重も今は若園祥子だ。そして若園祥子は伊豆明久が愛人に産ませた娘。ここまでは間違いないな」、意地の悪い笑みを浮かべて蒼汰が確認する。  まさにその通りだ。  「伊豆家はな、金に困っているんだよ。あの丹波の爺ィに融資を頼むほどにな」、ココまでも解るなと、しつこく念を押した。  ソコまでくれば、この幼馴染みが何をやったかなんて、聞かずとも解ると言うモノだ。  「お前ェ~」、金にモノを言わせて、無理矢理に若園祥子と婚約しようという魂胆と見た。  「どういう心算だッ、まるでシェークスピアの『ベニスの商人・シャイロック』じゃ無いか」、勇の言葉に破顔の笑みで返した。  「お褒めの言葉を有難う。最近のゲームの中じゃ、シャイロックはイケメンだ。女どもの憧れだよ」  「そういうことを言ってるんじゃないぞ。お前が祥子を金で買ってもな、昔には戻れんと言ってるんだ」、もはやけんか腰だ。  「ソレでも良いと、俺は考え直した。七重とうまく行かなかった大元は、俺が七重よりも二十歳も年下だったからだ」、苦々しそうに言い捨てた。  だが、今度は立場が逆転。七重が入り込んだ若園祥子は十六歳、蒼汰よりも二十一歳も年下だ。  「俺の方が、絶対に有利だ!」  今度こそ、開いた口が塞がらない。蒼汰は忘れているようだが、見てくれは十六歳の少女でも、中身は五十七歳の七重だ。大人しく婚約なんかするものかッ。  「七重に痛い目に遭わされても、助けないからな」、嫌みの一つも言ってやらねば気が済まない。  そこで蒼汰が、またまた意味不明なことを言い出した。  「先週だったかな、俺は久しぶりに源さんに会ったよ」、どうも岩村七重の骨を、岩村家の墓に納めた帰りに。源さんの方から、蒼汰のマンションを訪ねて来たらしい。  「源の叔父貴(おじき)がか?」、【キッチン・アリス】のコック長だった源さんは、勇の母の弟だ。  七重よりも一回り年上の源さんは、父親が亡くなった後で店を継いだ七重を、女房と一緒に支え続けて来たが。四年前にコックを引退した。(今から考えれば、蒼汰が企んだ立ち退き騒ぎのあった頃だろうか)  今は夫婦で、家庭の都合などで十分な食事が取れない子供達の為に設立された、【こども食堂】の運営に携わっている。  「どうしても話しておかなきゃならない話があるって、そう言ってな」、どこか哀し気な顔をした。  驚いたことに、源さんは。  七重と蒼汰の間に起こった十五年前の艶話(つやばなし)を殆ど全部、知っていた。しかも義兄の能登組の社長から聞いたとかで、蒼汰の呆れるような計画も、その準備段階の顛末まで知っていた。  十五年前になる。「まったくなぁ。今時の若い奴の考えてる事なんざ、丸っきり分からねぇよ」、能登組の番頭・伊東を締め上げた勇の父は。ベテランのデルヘリ嬢を相手に、蒼汰が決行した武者修行の顛末を聞き出したらしい。
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