第二章  昨日の敵は、今日も敵だ!

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 三月もいよいよ大詰め。  アザレア自由学園の保護者会では、新学期を見据えた次期後援会長の選挙を一週間後に控えている。いままで三年間ずっと、学園内に猛威を振るってきた会長の福島(ふくしま)省吾(しょうご)が、末息子の卒業を受けて引退するのだ。  次期会長に名乗りを上げているのは、二学年の息子を持つ副会長の伊達(だて)清隆(きよたか)と、一学年の娘を持つ五島久志の二名だけ。  言い換えれば、二人の一騎打ちだ。  旧福島派の重鎮だった伊達氏には、信奉者も多く。お公家様と言う渾名の通り、穏健な運営を目指すハト派だ。  それに対する五島氏は、革新的な学園改革を旗印に急速に勢力を拡大してきた、いわゆる成り上がり者。果敢に闘いを挑むタカ派である。  二人の戦いは、今のところイーブン。  二学年の保護者に受けが良い伊達氏が、一歩リードを広げたか?・・と云うところだろうか。  片や五島派も、敵対する伊達派を粉砕するための情報収集に余念がない。若園祥子の記憶喪失も中々に面白い題材ではあったが、今一つ抜きん出たスキャンダルに仕立てあげるまでに至っていないのが現状だ。  「何か、これはと言った話はないモノかなぁ。明美や、耳にしているスキャンダルはないのか?」  夕食の席で、テーブルの端に座る父親から質問のメッセージが届いた。上流階級入りを目指す五島久志の意向で、五島家では十人用の長テーブルの両端に、久志と明美が座ることが義務付けられている。  親子の会話も、メッセージカードを銀のトレイに乗せた執事の手で交互に運ばれるのが決まりだ。  「そうねぇ。あの若園祥子が二月に入部した美術部かしら。二学年の女子に面白い噂があるのよ」、スープを飲み終わった頃、明美からメッセージカードが返って来た。  「ほぉ、どんな話だね?」  早速の返信が、魚料理と一緒に運ばれて行く。  「問題の女生徒の名前はねぇ、室蘭優姫っていうのよ、お父様」、お口直しのソルベと一緒に、久志の元に返事が返ってきた。  「どんなスキャンダルだね?」  肉料理と一緒に、またまたブーメランメッセージ交換が炸裂。  「うふふっ*あの子ったらね、年上の男と同棲中なんですって」、返ってきたメッセージに、チーズをのどに詰まらせて咽こんだ。  もう食事どころの騒ぎじゃない。デザートのお菓子もフルーツもそっちのけで、急いで席を立つと娘の元に飛んで行った。  「お父様、不作法ですわ」、明美が顔をしかめる。  「すまん。だがもっと話が聞きたい」、父親の興奮した声を耳にして、して遣ったりとほくそ笑んだ。
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