第二章  昨日の敵は、今日も敵だ!

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 また、しばらく無音だったが。  「これからそこまで、ドン・フィエコ家の車をお迎えに出しましょう。旦那様がお会いになられるそうです」、それだけ言うとブツっと切れた。  数分後。  門扉の向こう側にロールスロイスが止まった。門扉が開くと、車から警備員が降りてくる。  「旦那様は校長先生と、後は代表者二名だけ通しても良いと申しておられます」  つまりその他の人間は立ち入り禁止だと、一方的に言い渡されたのだ。  「無礼なッ」、弁護士が憤った。  「しかし五島さん。校長先生と一緒にこの先を確かめねば、ココまで追跡してきた意味がありませんぞ」、江戸川医師が五島氏に向かって正論を述べる。  「では、その二名は僕と江戸川先生と言う事で。皆さんの御同意がいただけますかな」  五島氏が結論を出した。  門扉の向こうに止まっているロールスロイスに校長先生と五島氏、江戸川医師が乗り込む。  また重々しい音を立てて門扉が閉まり、三人を収容したロールスロイスは緩やかな坂道を上っていくと。やがてカーブを曲がり、残された人々の視界から消えた。  手持ち沙汰で待つ人間の、想像力逞しい事と言ったらない。しかも残されたのが社長夫人の相模女史と、口やかましい常識派の代表格・江戸川夫人。  三人目が、蔑ろにされることになれていない弁護士先生だから堪らない。  運転手が耳を塞ぎたくなるような悪口雑言の後で。結論として出たのは、この先にあるのはやはり、危ない魔窟だろうという結論だった。  「室蘭優姫ってオンナは、きっと奴隷市場で売り買いされるような売春婦なのよ。この間、テレビの潜入番組で見たわ」、と相模女史。  「あれですわね、確かマカオの買春窟のお話しよね。あの時もこんな風に、山の中に隠されたお屋敷でしたわ」  これは江戸川夫人のお言葉だ。  また門扉をアチコチ調べ捲っていた弁護士先生が車まで戻ってくると、重々しく同意の頷きを噛ます。  「あの門の上のわざとらしい紋章が、如何にもと言う感じで怪しいですなぁ」、弁護士としては警察に通報したいところだが、三人が無事に戻ってくるまでは動きが取れないと、わざとらしい言葉を口にする。  御婦人方の不安をあおって、あらぬ方向に話を導いていく。こうして法廷で冤罪はつくられるのだろうと・・運転手は呆れて聞いていたが。  ソコは身分を弁えて【見ざる・聞かざる・言わざる】に徹することにしたのは、中々の英断だった。
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