第二章  昨日の敵は、今日も敵だ!

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 校門から出てきたユキを乗せた後で。ロールスロイスの後ろをついて走る不審な車の存在に運転手が気付いたのは、アザレア自由学園の校門の前を発車して、それほど経たない頃だった。  「ユキさま、後ろから妙な車が追ってきます」、ユキに注意を促すと。  「これからすぐに、お屋敷と連絡を取りますが。応援の車が到着するまでは、何があってもお車からお出になりませんように」  安全の為だと念を押した。  翔之介・アベル・ドン・フィエコは世界に名だたる大富豪の一人だ。その婚約者である優姫に誘拐の魔の手が伸びる危険も、日常と隣り合わせにある。  警戒は怠れない。  直ちに屋敷に連絡を入れた。  緊急連絡は警備室に直通。門の外で優姫の帰還を待って待機中だった、銃弾にも耐える装備を施した特別車両の二台が、優姫を迎えに急行した。  ロールスロイスに警備室から指令が入る。街中での襲撃は薄いと踏んだ警備室が、交通を妨げない程度に速度を落とした状態を維持しろと指示、応援車両の到着を待つように連絡を入れた。  勿論だが、書斎で仕事中だった翔之介にも連絡は聞えた。微かに眉をあげると、仕事を中断。  警備室長を呼んで説明を求めた。  一見したところは穏やかな様子の翔之介だが、長年にわたりドン・フィエコ家の警備を担当してきた室長は騙されたりしない。  室長の説明を聞く翔之介が握った、その拳の堅さに注視した。堅く握られた拳は翔之介の怒りのバロメーターだ。  「相当、怒っておられる」、室長が予測した通りの反応だ。  「二分前にロールスロイスに追いついた二台の車両で、前後の護りを固めました。追跡車の接近を阻んだままの状態を維持、屋敷に向かうように指示を出しましたが」  「宜しいでしょうか?」  翔之介の承認を求めた。  「ウム。その車はまだ、ロールスロイスの追跡を続けているのか?」  「襲撃の気配はありませんが、付かず離れずの距離を保って追跡を続けております」  「そうか」、深く息を吸う。  翔之介はユキを屋敷に引き取る時、どんな生活をさせるか随分と悩んだ。翔之介と結婚して、正式にドン・フィエコ家の一員になったら、色々と縛りの多い生活が始まるのは目に見えている。  大富豪の妻が一人で、自由気ままに出歩くことなど、誘拐してくれと言わんばかりの暴挙に等しい。  そんな暮らしをユキはどう思うだろう?  ソコも十分に考慮した。  ユキが通う高校を決める時も、随分と悩んだ。父親の母校であるアザレア自由学園に行きたとユキが望むから、危険を承知で黙ってそこも許した。
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