第二章  昨日の敵は、今日も敵だ!

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 その時だ。  そっと控えめなノックの音が三回。執事が遠慮がちに、ドアを開けると声を掛けた。  「旦那様。門の外に停車した車から降りてきた男が、優姫様への面会を要求しております」、不快そうな声で告げた。  「警備室長は何と言ってるんだ」  「それが。アザレア自由学園の保護者会を名乗っておりまして。室長が旦那様のご指示を頂きたいと申しております」  翔之介が面倒くさそうにモニターのスイッチを入れた。壁に取り付けたスクリーンに、校長先生の顔が映し出される。  「あら、校長先生。どうしてココにいらっしゃるの?」、不思議そうなユキの声が耳に入ると。  「ユキを追跡してきたのはコイツらか。何しに来たんだ」、不機嫌な声が出た。  恐る恐るドアからそっと、秘書が顔を覗かせた。翔之介のユキに寄せる想いが解っているだけに、苛烈な性格の翔之介がどんな仕打ちに出るのか不安で戻って来たのだ。  「ニコラス、警備室長をモニターに出せ」、冷たい声の命令が飛んできた。  「ユキに確認した。確かにアザレア自由学園の校長だそうだ」、呼び出したスクリーンの中の警備室長に、不機嫌な言葉をぶつけた。癇癪が増大中らしい。顔がどんどんと険しさを増していく。  「僕が話を付ける。校長と、あと二人ほど屋敷に連れてこい」、但し、車を乗り入れることは許さんと、強い口調で言い付けた。  膝の上のユキを下ろすと、執事にユキの面倒を預けた。  「ユキは部屋で待っていなさい。アイツらは僕が始末する」、言葉がどんどんと苛烈さを増していく。ユキの中で不安が大きく膨らんで、もう少しで破裂しそうだった。  翔之介がその気になれば、どれほど苛烈で冷酷非情な人間になれるか。仕事中の彼を二年間もそばで見て来たユキには、よく解っている。  いきなり押しかけて来た校長先生や保護者会の人々に、翔之介がどんな仕打ちをする気か、心配でたまらないのだ。  その翔之介はと言えば。  彼のアザレア自由学園への評価は、最低レベルに落ち込でいた。明日にでも、ユキに高校を辞めさせたい。  『来月の十日が来たら、ユキは誕生日を迎えて十八歳になる。いっその事、ユキと結婚してしまうのも良いな』、翔之介の欲望を引き留めているか細い我慢の糸がプッツリと切れてしまう前に、そうしてはどうかと。両親からもしつこく言われているのだ。  決断するイイ機会かも知れない!  そうなればユキは、翔之介の妻だ。両親が望む通り、もしもユキが妊娠したら。もはや高校になど通っている場合じゃない。  愛するユキのお腹に宿った彼の子供は、莫大な資産を持つドン・フィエコ家の大事な跡取りなのだ。  ソコに想いが行き着いた翔之介の顔が、不意に和らいだ。
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