第二章  昨日の敵は、今日も敵だ!

51/64
前へ
/147ページ
次へ
 二年前になるだろうか。福島氏が突然に、校長室に押しかけて来たことがあった。  あの頃は、新しく建てる予定の体育館の建設に苦慮している頃で。期待していた国からの助成金が予定よりもずっと少なく、平身低頭して保護者会に寄付金の追加をお願いをしている最中だった。  「思いがけず、すごく大口の寄付を取り付けたよ」、意気揚々と校長室に現れた福島氏だったのだが。その時の福島氏が、その大口の寄付には条件がある様なことを言っていた気がする。  「今度、アザレア自由学園に入学するある女生徒の事なんだ」、言葉を切ると。「どんな審議も不問にして貰いたい」と続けたのだ。  当然だが、校長先生はその女生徒の名前を明かしてくれと迫った。「責任者として、聞いておかねばならない」と、キビシク迫ったのである。  「問題はだねぇ、その生徒の名前を明かすことが、彼女の命の危険につながるという点なんだよ」、意味不明な返事が返ってきた。  ココだけの内緒の話だと言って、福島氏が明かしたところでは。  その女生徒は、ある途轍もない資産家の許婚で。彼らが属する世界では、身代金目的の誘拐など日常茶飯事。有名な処では、アメリカの新聞王・ハースト家の令嬢誘拐事件が挙げられると言ったのだ。  「それに匹敵する大富豪が絡んでいる一件でね。この大口の寄付も、その大富豪が許婚の身元を公表しないという約束の謝礼に支払ったものなんだよ」、長々と訳の分からぬ説明が続いたから、アクビが出て半分居眠りしてしまった。  五島氏が乗り込んでくるまでは、審議が必要になる様な女生徒はいなかったから・・校長先生もスッカリその件を忘れていたのだ。  普通では考えられないような目の前の景色を前に、あの時の福島氏の言葉が蘇った。  あの時、「別世界に住む大富豪だ」と福島氏は言わなかっただろうか?  「もしかしたらあれは、室蘭優姫のことだったのかな・・」、思い出したその話しに怯えが奔る。貰うモノはすでに、貰ってしまった後なのだ。  今更、「聞かなかった」では済まされないだろう。これが福島氏が言っていた大富豪に関係する場所だったら・・そう考えるだけで豆腐のような根性の校長先生の身体に、サム襤褸が出る。  やがて彼らを乗せた車は庭園を走り抜け、ドーム型をしたガラスの宮殿に到着した。  「ベルギーにある、ラーケン宮殿みたいな建物ですなぁ」、江戸川医師が博識を披露する。  「まともなヤツの棲家じゃないなッ」、その江戸川医師の言葉を受けて、五島氏が語気も荒く吐き捨てた。
/147ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加