第二章  昨日の敵は、今日も敵だ!

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 車は華麗な玄関先に停車。助手席に乗って来た警備員が先に飛び降りると、出迎えに出てきた上品そうな初老の男に彼らを引き渡した。  「私はドン・フィエコ家の執事、マルコ・篠島と申します」、初老の男が自己紹介。  「書斎で旦那様がお待ちです。ご案内いたしますので、こちらへどうぞ」、慇懃無礼な態度で挨拶を噛ますと、先に立って歩きだした。  三人が案内されたのは、ガラスの宮殿の奥深く。高いアーチ型の天井が張り巡らされたホールを通り過ぎた先にある、大層に広い執務室だった。  壁一面に備え付け付けられた大小さまざまな、無数のモニター画面。世界中に散らばるドン・フィエコ家の経営する会社の運営状況が映し出されているモノもあれば、刻々と変わる外貨の動きや株価の変動などを映し出したモニターもある。  中央に置かれた大きなデスクの周りには、幾人ものスタッフがPCで事務処理に追われている。忙しく動き回って連絡処理に追われている秘書らしき人々の姿もある。  「ほぉ~。白、黒、黄色が混ざって働いておりますぞ」、江戸川医師の差別発言に校長先生はヒヤヒヤし通しだ。  五島氏と江戸川医師は気が付いていないらしいが、彼らが近ずくとスタッフは一様に仕事の手を一時中断。冷ややかな視線を突き刺してくるのだ。通り過ぎると、まるでそんなモノなど見なかったように仕事に戻る。  そんなスタッフたちの横を、普通に執事が通り過ぎてゆく。  やがて突き当りにある、瑠璃色と空色を背景にグラデーションされたパステルカラーで彩られた薔薇の花が咲き誇る大きなステンドグラスが嵌め込まれたドアの前で立ち止まった。  「旦那様、お連れいたしました」  ステンドグラスのドアの横に、同じように嵌め込まれた飴色のマカボニーの壁板を、執事が三回ノックした。  「入ってよい」、中から低い男の声が聞こえてきた。  執事が壁のスイッチを押すと、音もなくステンドグラスが壁の中に吸い込まれていく。  その先に、ゆったりとした大きな革張りの椅子とソファーが、温室のように明るい室内の中央に置かれているのが、彼らの目に飛び込んできた。中央の椅子に座り、見るからに日本人ではない男が緩く手招きした。  執事はうやうやしく、その男に向かってお辞儀をすると。「アザレア自由学園の校長先生と、保護者会の方々だそうです」、冷たい口調で彼等の来訪を告げた。  男は黙って頷く。  「どうぞお入りください」  またまた慇懃無礼な執事の声。  ソファーの側まで案内すると、執事が男に客人を着席させても良いか許可を求めた。彼らに冷たい視線を浴びせていた男が、また鷹揚に頷いた。
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