第一章  十六歳になった日

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 そこそこのお金を伊吹弁護士から預かっていた三浦看護士は、細身の少女によく似合う可愛らしいピンクのセーターと細身のジーンズ。ゴールドの防寒着や靴を整えると、新品の下着を持って祥子の病室を訪れた。  背中にとどく長い髪を、ポニーテールに結い。少女らしい服に身を包んだ祥子は、どこか儚げな印象で。三浦看護士の保護本能を刺激する、可愛い妹のような女の子に変身した。  だがシッカリと、自分の今後を見据えている様子も見受けられる。そんないたいけなさが、祥子のために何かして遣りたいという三浦看護士の想いを増幅させた。  事故現場には、ソコで死んだ五十七歳の女性に手向けられた花束が幾つか置かれていた。もっとも事故から十日が過ぎ、いささか枯れた感じは否めない。  世の中はお正月の三が日、松の内にある。人通りもまばらな歩道に佇むと、深く息を吸った。  「ここで・・死んだのかぁ」  自分が死んだ場所を見ると言うのも、中々にしんどい体験だ。気丈な七重と言えども、身体の震えを止められなかったのも仕方がない事だと思ってもらいたい。  だが三浦看護士には、祥子が事故の瞬間を思い出して怯えている様に映った。「大丈夫よ。ココを歩いていた日は、もう一週間以上も昔だわ」、三浦看護士の手が優しく背を撫でる。  「お花、用意してこなかったな」  小さな囁きが、不意に口を突いて出た。  「自分への献花かぁ」、間が抜けた思い付きに心の中に自嘲があふれる。  「いいわ。買ってきてあげるから、ココで待っててね」、祥子の言葉に涙ぐむと、心優しい三浦看護士は通りのはずれにある花屋を目指して歩き出した。  「直ぐに戻るから、そこにいてね」、振り向いて手を振ると、そのまま駆けていく。  「イイ人だなぁ」、驚いたが。嬉しくもある。この世に一人ぼっちで放り出されたような気がして、不安と寂しさで押しつぶされそうだったのだ。  ワタシは自分が死んだ歩道の辺りに、ただ跪くと。死神くんに手を引かれて天国に行ったであろう、本物の若園祥子の魂に祈りを捧げた。  「死んだのはアタシよッ」、あの時の少女の必死の叫びが耳に蘇る。  アレから十日。時間を無駄にせず、とにかく若園祥子の情報を出来得る限り集め捲ったのだが。彼女が学生カバンの中に残した日記を読んだときには、思わず同情の涙がこぼれた。  可哀想さでは、アタシの前世と張る。私生児に生まれたカノジョは母親の死後、ずっと一人で生きて来たようだ。
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