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第一章 十六歳になった日
1・不幸が空から落ちて来た!
世の中がクリスマスで満ち溢れていた、去年の十二月二十四日。その日は朝から冷たい雨が降っていた。
長かった母の看護からやっと解放された私は、葬儀という名前の魂を見送る儀式を終えたばかり。寂しいのか、ホッとしたのか、ソコのところは曖昧だが。取りあえず急いで帰らねばならない理由が無くなったのは確かだ。
「昼過ぎには雪へと変わった街は、人もまばらで。歩道は白い処女地」と言えば聞こえはいいが。
早い話が、ツルツルと滑る危険地帯の出現だ。だが歩道の端には、高いビルのお陰で雪が降り積っていない貴重なスペースがある。
「帰るなら今がチャンスだ」、ふとそう思った。魔がさしたと言う言葉は、あの時の私の為にあるのかもしれない。
「帰ろうかな」、独り言を言うと。滑るのが怖いから、その僅かなスペースに足を踏み入れた。ビルの壁沿いに、細々と続く道だ。
ツルツルの歩道を避けて隅を歩くのに、チョットだけ疲れてきた時だった。空の上の方から、何か黒い物体がもの凄いスピードで近づいてくるのが見えたと思った。
次の瞬間だった。
恐ろしく重くて固い何かが、身体を直撃した。硬い岩の下敷きになったような衝撃。しかも下敷きになったのは、ワタシだけじゃない。少し前を歩いていた制服姿の少女も、下敷きになっているのが見える。
ワタシと少女の上に転がっているのは男の身体・・「コイツは何処から来たんだ?」、それが最後の記憶だった。
浮遊感がワタシを包む。
死ぬときには自分の身体が下に見えると言うが、その時はまさにその貴重な体験をしている最中だった。
ワタシの身体と、少女の身体が。くたびれた中年男の下敷きになって倒れている。走り寄ってくる人の群れ。
スマホで写真を撮り始めた。
救助もせず、撮影に夢中だ。動画まで撮っている。
ビルから走り出て来た人がやっと、救急車を呼んでくれたみたいだけど。こんな風に宙に浮いているのだから、きっとワタシは瀕死の状態に違いない。
そこで。同じように宙に浮いている少女と目が合った。
『アタシ・・死んだの?』
間が抜けた質問だが、そこはワタシも気になるところだ。別に是非とも生き返りたいわけじゃないが、地面に倒れたまま死ぬというのも、可哀想な気がする。
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