私の身に、王道展開なんてあり得ません

5/18

9035人が本棚に入れています
本棚に追加
/252ページ
♢ 「おや灯ちゃん、いらっしゃい!」 「おばちゃんこんにちはー」 "ふじさわ食堂"と、赤地に白抜きの暖簾の下がった引き戸を開けると、割烹着のよく似合う60代のふくよかなおばちゃんが元気よく声を掛けてくれる。 まだお昼になったばかりだというのに、今日も相変わらずサラリーマンや作業着姿のおじちゃん、(あん)ちゃんたちで、店内は既に8割型席が埋まっていた。 「今日は何にする?」 通い過ぎてすっかり常連の私は1人で来る時大抵カウンターの席に座るのだけど、今日は生憎カウンター席が埋まっていたため空いていた2人掛けの席についた。 それと同時にお冷とお絞りを持ってきてくれたおばちゃんが聞く。 「唐揚げ定食で!」 「はいよ!唐揚げちょっとおまけしとくからね。から定一丁ー!」   厨房に注文を投げたおばちゃんの声に、おじちゃんが頷いた。 おばちゃんはいつもそう言って何かしらおまけしてくれる。 早い、美味い、安いだけじゃない、そういうおばちゃんの優しさが私みたいなリピーターを生み続けてきっとこの大繁盛振りなのだ。ちゃんと採算は取れているのか、ちょっと心配な所だけれど。 「いつもありがと、おばちゃん」 「灯ちゃんはひょろっこいくせに食べっぷりがいいから、ついたくさん食べさせたくなっちまうんだよねぇ」 私がお礼を言うと、おばちゃんがシワシワの顔をくしゃりとさせて悪戯っぽく笑う。
/252ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9035人が本棚に入れています
本棚に追加