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【第四章】全国大会
車道脇を歩くときはいつも、
凛が車側に立って陽翔を守った。
横断歩道を渡る時も
歩道橋の階段を降りる時も
陽翔の先を歩いた。
それはごく自然に
毎日
当たり前に行われていて
陽翔は凛に守られている事を当たり前のように思っていた。
凛が自慢のロングヘアをばっさり切ってしまったのも空手を始めるのに邪魔になったからだ。
全てが陽翔のためだった。
ーーー
全国ジュニア空手選手権が始まった。
凛は調子が良く
順当に決勝まで勝ち進んだ。
見に来ていた葵たちが客席で狂喜乱舞しているのが見えた。
次の試合は前年度のチャンピオン、
胡蝶咲良(さくら)だ。
パワー、スピード、テクニックとも小学生とは思えない実力を持っている。
しかし、凛の方がパワーもスピードも咲良より上回っていると自負している。
負ける気がしない。
控室に戻る凛に一人の選手が声をかけて来た。
花山智鶴(ちづる)。
凛の憧れであり、
中学三部門男子のニ年連続チャンピオンである。
今年も優勝を期待されている。
イケメンで爽やかで空手界の若手ホープである智鶴は人気が高く、雑誌に取り上げられる事も多かった。
観客席の女子の殆どが彼を目当てに来たと言っても過言ではない。
彼の試合の写真を撮るため用意されている最前列の席には雑誌のカメラマンがひしめき合っていた。
「立花さん、おめでとう。
調子がいいみたいだね。
これなら優勝間違いないよ」
突然声かけられ
自分の名前を知っていた智鶴に戸惑いながら
「あ、ありがとうございます‥」
と返事をした。
「話したい事があって。
ちょっといい?」
智鶴はそう言うと凛の手を引き、
人気のない階段の下に連れて行った。
凛は聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいの心臓の音を隠すように胸を押さえながら
智鶴の話を待った。
なんだろう、
話って。
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