【第六章】初Kiss

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【第六章】初Kiss

その日の夜は日課になってる 二人の窓越しトークが無く、 陽翔はただ自分の部屋から見える 暗くなった凛の部屋を見つめているだけだった。 ノックの音が聞こえ、 陽翔の父親が部屋に入ってきた。 「やっぱり凛ちゃんの事が気になるか。 試合の後落ち込んでいたらしいからな」 陽翔は、父親に試合前の出来事を話して 自分がいいキミだと思った事を反省していると話した。 父親はうーんと唸って、 「俺ならその男をブン殴るかな。 今はそんな時代じゃないのかも知れないけど、自分の好きな女の子を泣かせる奴は誰であっても許せないと思う」 と答えた。 陽翔は下を向いて小さく頷いた。 「それとあの話、ちゃんとしておいたほうがいいぞ」 「わかってる…」 ーーーー 翌日は祝日だった。 陽翔が凛の家を訪れたのは その日の昼過ぎだったが、 凛の家は静けさに包まれていた。 陽翔は凛の家のチャイムを鳴らした。 返事が聞こえ凛が出てきた。 「ハルくん?」 驚いた凛の目には泣き腫らしたような痕が見えた。 陽翔は胸が苦しくなった。 凛は陽翔の後ろに立っている智鶴と咲良を見て後退りした。 「大丈夫。リンちゃん。」 陽翔が言った。 咲良は智鶴の脇腹を指で小突いた。 「お、おう。」 智鶴はそう言うと凛に頭を下げて言った。 「昨日はあなたのこと、 傷つけてすいませんでした。 ごめんなさい。」 「え?」 咲良が前に出て説明した。 「今朝、陽翔くんがうちらの所にやって来て、 リンちゃんに謝って欲しいって 頭を下げて来たの。 本来なら私たちから謝りに行くのが 筋なんだけどね。 ‥‥本当に、ごめんなさい。」 と言って咲良も頭を下げた。 凛はハルトの顔を見た。 ハルトは照れたように笑った。 帰り際、咲良が凛に近づいて、 耳元でそっと囁いた。 「素敵な彼ね。」 凛はハッとして咲良を見る。 「彼にお礼を言いなよ。」 にっこり笑うと 智鶴と腕を組んで帰って行った。 二人が帰っていくと、 凛は陽翔に何か囁いた。 「ありがとう‥くん。 私‥くん‥一筋だから‥ね」 陽翔は聞き直すように凛の口元に 耳を近づけた。 凛は陽翔の頬に そっと、キスをした。 陽翔は耳まで真っ赤にして下を向いてしまった。 凛も耳まで真っ赤にして下を向いてしまった。 しばらく二人とも黙っていたが、 凛が先に口を開いた。 「ハルくん‥明日、空手合宿に行ってくる」 「うん‥」 陽翔は下を向いたまま答えた。 「一週間。 ハルくんとそんなに長く離れるの、 初めてかも。 連絡もしちゃいけないみたい。 私、淋しくて死んじゃうかも。」 最後の方は涙を堪えるような声になった。 「だから、 ハルくんに逢いたくなったら、 空を見上げるんだ。 離れていてもこの同じ空の下にいるんだって思ったら寂しくないから。 ハルくんも寂しくなったら 空を見て! でも、帰ったら またいつもの窓越しトークしようね。」 凛はそう言って嬉しそうに 陽翔の腕にしがみついた。 陽翔は凛が捕まっている腕を ぎゅっと掴んだままずっと離さなかった。 ーーーー 次の日、 合宿当日、陽翔は笑顔で凛を見送った。 「私、もう大丈夫だから! 帰ってきたらまた守ってあげるからね!」 凛は母親の運転する車に乗り、合宿に出発した。 その日、大輔から電話がかかってきて 今までのイジメの事を謝って来た。 すぐに凛がそうしてくれたのだと分かった。 やっぱりリンちゃんは凄いな。 陽翔は唇を噛んで泣いた。
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