【第七章】手紙

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【第七章】手紙

合宿最終日。 凛の母親が迎えに来た。 荷物を車に乗せると、合宿場を後にした。 母親の運転する車が止まり家に着いた。 すごく久しぶりな感じがする我が家。 気持ち良さそうに背伸びをして、 ふと、陽翔の家を見る。 「あれ?何でハルくんちの表札、 無くなってるの?」 母親は困った顔をして 「あのね、凛、ハルくんね‥」 凛は目を丸くして、 嫌な予感を押さえつけながら 陽翔の家の門を開けて中に入り ドアを思いっきり叩いた。 「ハルくん開けて! 私、帰ってきたよ!」 震える手でドアをガシャガシャとやる。 庭にまわって窓から中を覗きこんだ凛は そのまま座り込んでしまった。 窓の中にはカーテンもない、家具もない、 ガランとした部屋があるだけだった。 凛の母親は凛の肩に手を置くと、 「陽翔くんにね、 引っ越しの事、凛には黙ってて欲しいって、 言われてたの。 ごめんね、黙っていて。」 そう言って一通の手紙を凛に渡した。 「これ、陽翔くんが凛が帰って来てから渡してくれって」 手紙を開けると陽翔の字で、 こう書かれていた。 『リンちゃん、 黙って引っ越す事を許してください。 こうでもしないとリンちゃんは僕を守ろうとしてきっと無茶をするだろうから。 それに僕もきっとリンちゃんに甘えてしまうから。 だから、引っ越す事に決めました。 元々お父さんの転勤でお父さんだけ行くことになっていたけど、僕もついて行くことにします。 僕なら大丈夫です。 もう自分の事は自分で守れます。 今までリンちゃんに甘えてばかりでごめんね。 リンちゃんが隣に引っ越して来て うちに挨拶に来た時、 僕はお人形さんのように綺麗なリンちゃんを一目で好きになってしまいました。 それからリンちゃんと学校行ったり遊んだり、毎日が楽しかった。 事故に遭った時も僕を助けてくれてありがとう。リンちゃんが僕を呼んでくれなかったら僕は永遠に目覚めなかったかも知れない。 イジメに遭った時も守ってくれてありがとう。本当に嬉しかった。 いっぱいの愛情をありがとう。 いつか会えたら男らしくなった僕を見てください。 きっとその時はリンちゃんをお嫁さんとして迎えにきます。 だから、さよならは言いません。 お元気で。 大好きなリンちゃんへ。 リンちゃんをお嫁さんにしたい山咲陽翔より。』 ハルくん、私だって同じだよ。 ハルくんに会ってすぐ好きになった。 カッコよくて優しいハルくん。 いつも私の事を気遣ってくれるハルくん。 毎日毎日が楽しかった。 自分の気持ちがわかっちゃうんじゃないかってドキドキした。 弟なんて思った事はないよ。 照れていただけ。 お別れする日が来るなんて思ってもみなかった。 だからハルくんが事故に遭った時、ほんとに怖くて頭が真っ白になって、ハルくんがもし死んじゃったら私も死んじゃいたいと思った。 二度と失いたくないと思って守ってた。 でも、 守ってたんじゃ無くて、 誰にも取られたくなくて、 束縛してたんだね、きっと。 ごめんね。 ハルくんが何も言わずに行ってしまったのは私のせいだよね。 ハルくんの心の中で芽生えてた想い、 分かってあげられなかった。 今度会う日まで可愛い女の子になるからね。 その時はいっぱいいっぱい守ってください。 凛は手紙を置くと、 その大きな瞳からボロボロと涙がこぼれ落ちていった。 凛の母親は何も言わず、 凛をぎゅっと抱きしめた。 凛は涙が枯れるまで母の胸で泣いた。
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