前世と嘘

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「あっ・・・あっ・・・ぁ・・・」 極めたばかりの身体は休む間も与えられず再び高みに押し上げられ、僕はわけも分からず快感に震える身体を支えるしか無かった。そんな僕の背に覆い被さるように僕の首筋に唇を押し当て、何度も吸い上げる。 強く、弱く、時には噛みつかれ、その間も手は休むことなく動き続ける。 「やだ・・・また・・・」 身体が再び極まろうとしている。だけど僕はそれを必死で堪える。 「挿れて・・・っ」 快感に震える身体を必死に堪えて僕は言葉を絞り出す。 「もう来て・・・そのまま・・・早く挿れて・・・っ」 その瞬間熱い猛りが一気に奥まで突き刺さる。 「ああっ」 指など比べものにならないほど熱くて太いそれは休むことなく抽挿を繰り返し、一気に高みへと向かう。そしてグッと体重と共に押し付けられた腰が最奥を突いたその時、僕は爆ぜ、お腹の中に熱い迸りを感じた。そしてそこで僕の意識は途切れる。 気がつくと僕は真っ暗な闇の中にいた。 どっちが上か下かも分からない深淵の闇。その中で僕は胸の苦しみに喘いでいる。 -胸が痛い。 -苦しい。 そして込み上げてくる激しい咳に、更に胸の痛みは増す。 咳とともに喉から込み上げてきたものを思わず吐き出すけれど、辺りが暗すぎてそれがなんだか分からない。だけどとにかく苦しくて、痛くて、僕はその場で蹲る。 -ちゃんと出来ただろうか。 辛い身体を自ら抱きしめ、僕は胎児のように丸くなる。 -ちゃんと嫌だって言えただろうか。 -あいつはそれを信じただろうか。 頭のどこかで、これは夢だと分かっている。 でもそれはとてもリアルだ。この痛みも苦しみも、いま本当に僕の身に起こっているように辛い。そしてこの心の痛みも・・・。 -あいつに信じ込ませるように、心の中でずっと『嫌』だと言い続けた。自分に言い聞かせるように。暗示をかけるように。そしてそのまま、あいつに言った。言えた。大丈夫。あの時のあいつの顔はちゃんと僕の言葉を信じた証拠。だからあとは逃げるだけ。あいつの傍から離れて、関わらないようにするんだ。そうすれば、あいつはすぐに僕の事など忘れて幸せになれる。 悲しみに心が押し潰されそうになる。 実際の胸の痛みに加え、心も痛みに悲鳴を上げている。そして誰もいない闇の中で、僕は一人蹲る。 -本当は傍にいたい。好きだと叫びたい。だけど、僕はもうすぐにいなくなってしまう。あいつの傍にずっといてやれない。でもあいつには幸せになってもらいたい。それを僕は出来ないから、だから僕は離れるんだ。 寂しさに身が震える。 寒くて寒くて仕方がない。 でも僕はそのまま一人で蹲る。 だけどその時、ふわっと温かい何かが背中に当たる。それは次第に大きくなり、やがて僕を包み込む。 『やっと見つけた。ごめん。遅くなって。もうお前を一人にはしないから・・・ずっと傍にいるよ』 その声に僕も振り返り、そして思い切り僕は抱きついた。 『これからはずっと一緒だよ』 その声に僕の心は幸せに満たされる。そしてその温もりは、僕を優しく包み込む。 温かい。 その温かさとともに闇が明け、その明るさに目を開けると僕は自分のベッドの中にいた。 まだ覚めきらない頭はまだ状況が掴みきれていない。けれどいつもは感じない温かいものが背中を覆い、そこから伸びる腕に優しく抱きしめられている。 一瞬まだ夢を見ているのかと思ったそのとき、こめかみに柔らかい感触が当たる。 「おはよう」 視線を上げると、そこには僕を見る優しい目。 僕は腕の中で向きを変えると、そいつに抱きついた。頬に当たる温かい胸。そして耳に響く心地よい心音。 夢・・・だったのだろうか。 いまでも胸の痛さと苦しさが残っている。そして暗闇に一人でいる絶望的な寂しさ。 あれは・・・。 僕の頭に『前世』という言葉が浮かぶ。 いや、あんな話を聞いたから、きっと夢に見てしまっただけかもしれない。 だけど、最後に感じた温かさと幸福感に僕の心は安堵する。 会えたんだ。 たとえ夢でもいい。 二人が会えたことが嬉しい。 そう思う僕に、優しい声が降り注ぐ。 「もう離さないよ」 力強く僕を抱きしめる腕の中で、僕もまた溢れる幸福に満たされる。 了
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