前世と嘘

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何となく『この人は嫌だな』と思う人がたまにいる。 それはほんの些細な仕草だったり、くせだったり、表情だったり・・・それなりに『嫌だな・・・』と思うところがあるのだけれど、いま僕の視界の中にいるそいつは、特にどこが嫌だという所はなかった。なのに『嫌』なのだ。 2年のクラス替えで、僕は初めてそいつに会った。いままでも廊下とかで会ったことがあったかもしれないけれど、一学年14クラスもあるこの学校で、顔も名前も知らないやつなんてざらにいる。そいつは僕にとってそんな生徒の一人だった。だけど初めて見た時から、僕はそいつが嫌だった。 初めて入った新しい教室で、出席番号順になっている席の、特に近くという訳でもないのにそいつは僕の視界に入ってきた。 なぜだろう? 特に目立つわけでも人気があった訳でもない。 そいつは普通に席につき、ただ前を向いていただけなのに、僕の視線はそいつに吸い寄せられてしまった。そして思う。 あいつには近づかないようにしよう。 どうしてそう思ったのか。 生理的に受け付けないと言うやつなのか。 とにかく僕は無意識にそう思って、関わらないようにしようと思ったんだ。 初めは順調だった。 クラスでは前からの友達とつるみ、特にそいつと関わらなくても特に問題はなかった。なのに行われた席替えで、その関係は崩れてまう。 くじ引きによる席替え。 生徒は40人もいるというのに、僕とそいつは席が前後してしまった。しかも僕の前。隣や後ろだったら見ないようにできたのに、前じゃ見ざるを得ない。 必ず視界の中に入るようになったそいつを、僕は複雑な思いでいつも見ていた。 本当は見たくない。 だけど前を向かない訳にもいかず、授業中は常にそいつの後ろ姿を見ていた。 でもそれだけだ。 それ以外は話もしないし、関わらない。そいつもわざわざこちらを振り向いたりしなかったし、視界に入るのを我慢さえすれば、今までと変わらない。だから早く、次の席替えをしてくれ。 そう思っていたけれど、そのまま何も無く終わるはずもなく、無情にも先生の声が響く。 「じゃあ前から順に、二人組になって行うように」 総合の時間。 この時間は特に決まった授業の時間ではない。各担任に任された時間であり、うちのクラスの場合、何かを調べて発表することが多い。 そして今回のテーマは『人に勧めたい自分の趣味』だ。 僕は知らずため息をついた。 前から順に二人組ということは、僕のペアはそいつだ。 サイアク。 そう思っていると、いつも背中しか見えなかったそいつがこちらを振り返った。 「今回ペアだな。よろしく」 きっちり目を合わせてそう言うそいつに、僕も『よろしく』と返す。 こうやってそいつと話すのはこれが初めてだ。話しどころか、顔をこんなによく見るのも初めて。 意外とイケメンなんだな。 普段は眼鏡をかけているそいつの顔は、至近距離から見ると整っていた。でもあまり前に出る性格では無いのだろう。授業中も自分から発言しないし、休み時間も誰かと話しているところをあまり見ない。 眼鏡とってもう少し髪型いじったら、女子にモテそうなのに・・・。 「で、テーマなんにする?」 そいつの顔を見ながらそんなことを考えていたら、ノートを取り出したそいつに声をかけられた。 「なんでもいいよ。趣味とか特にないし」 本当は読書が好きだけど、わざわざ人に好きな本を勧める気は無い。僕の好きな物は、僕ひとりで楽しみたいのだ。 「じゃあオレがやってるゲームにしよう。・・・これ知ってるか?」 そう言ってそいつはスマホを取り出してアプリを起動する。その画面に映し出されたゲームは最近流行りのアクションロールプレイングゲームだ。 「聞いたことあるけど、やってない。・・・それ、友達紹介してよ。僕もやってみる」 知らないゲームをテーマにしたら、僕は全く役に立てない。そいつに全てを任せるのも悪いし、何より癪に触るので、僕もやってみることにした。
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