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 それから十年ほど過ぎた。 「おっ、邑咲ルナじゃないですか。私、これでも邑咲ルナの大ファンなんです。よかった」  取引先の女性社員がパンフレットの表紙を見ながら翔太に言った。 「今度の新サービスのイメージキャラクターなんです。実はわたしも昔からファンで。ほら、新しいコマーシャルも」 「見ました! 本当にかわいいですよねえ」  サラリーマンとなった翔太は、取引先に新サービスを売り込んでいる途中だ。その新サービスに邑咲ルナが起用され、コマーシャルも流れはじめた。お客さんからの反応も上々。  邑咲ルナも今ではアイドルから本格的な俳優へと成長し、映画やドラマに出演している。もちろん、コマーシャルにも。  街には邑咲ルナが商品を手にして微笑むポスターがあふれ、店には邑咲ルナの顔写真が載った商品が並んでいる。歯磨き粉、自動車、頭痛薬、エアコン、携帯電話サービス……。  健人から電話が入ったのは、その取引先から出た直後のことだった。仕事中の時間帯に電話が来るなんてめずらしい。健人だって仕事に忙しいはずなのに。 「おい、ニュース見たか? 邑咲ルナが結婚するんだって! 速報が流れてる!」  健人は興奮を抑えきれない口調。 「マジで? いや、たしかに僕は邑咲ルナのファンだけどさ、わざわざ仕事中に電話してまで伝えてくることか?」  翔太は興奮する健人にあきれてみせる。 「そうじゃないんだよ! 邑咲ルナが結婚することは大ニュースだけどさ、問題はその相手なんだよ。誰だと思う?」 「わかんないよ。てか、これからまた別の取引先に行かなきゃいけないんだよね」  翔太はうんざりしてこのまま電話を切るぞと告げるように健人に言った。 「涼介だよ、涼介! 邑咲ルナが涼介と結婚するって!」
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