08.

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08.

 涼介の唐突な言葉に、翔太は息を飲む。  翔太は自分の人生を、他人からの視点で考えたことはなかった。他人からうらやましがられる人生、それはいったいどういう人生なのだろう。  金持ちになる、家族に恵まれる、充実した仕事を持てる……。なるほど、そう悪いものではないのかもしれない。抗い難い誘惑が、翔太を手招きする。涼介がそういった人生に憧れるのもわからなくはない。 「でも、大切なものを失ってしまうんでしょ?」  誘惑に引き寄せられるのに抗うように翔太はおじいさんにたずねる。おじさんは大きくうなずく。 「そうだ。他人にうらやましがられるような人生と引き換えに、お前さんにとって、いちばん大切なものがひとつだけ失われる」  翔太の胸にさまざまな思いや人の顔が浮かぶ。家族、恋人、そして涼介をはじめとした友人たち。  それだけじゃない、楽しかった記憶もあるし、取っておきたいモノだってある。子どもの頃に家族で外食した思い出。恋人と初めて二人で出かけた記憶。そのうちのどれかひとつ、翔太にとっていちばん大切なものが失われてしまう。自分にとっていちばん大切なものは……。
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