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09.
「僕はやめとくよ」
翔太は涼介にそう告げた。きっぱりと。
「本当にいいのか?」
涼介の言葉に翔太はうなずく。翔太はもう一度考えてみたらどうだ、と言いたそうな表情。それでも、少し考えたあとに涼介は翔太にきっぱりと告げる。
「そうか、わかった。それが君の選択ならしかたない。俺はこのバスに乗るよ」
「本当にいいのか?」
翔太はさっき涼介が口にした言葉を繰り返す。けれど、涼介は大きくゆっくりとうなずき、おじいさんのいる古めかしいバスへと乗り込む。
バスのドアが閉まる。窓際の席に座った涼介はバスの窓越しに翔太の顔を見つめる。涼介の顔には寂しそうで、そして同時に覚悟を決めたような、そんな表情が浮かんでいた。
バスは走り出し、真夜中の闇の中に立ち込めたもやの彼方へと消えてしまった。翔太はパスが消えてしまっても、もやをじっと見つめていた。
涼介はいったいなにを失ってしまうのか。涼介がいちばん大切にしているものとは。
そんな疑問を浮かべながら。
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