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ははっと神様が笑って、僕の手を掴んだ。パッと目を覚ました時、またあの天井が目に飛び込んでくる。五度目の同じ朝。やれることはもうやった。事故に遭う時間をズラしてみた。別の道を使って学校に行こうとした。家に籠ってみた。でも全部ダメだった。結局、僕は死んだ。後は何がある? どうすれば生きられる?
家を出て、いつもの道を使う。最初に死んだ時と同じ時刻に信号に捕まる。ちらっと車が飛んでくる方向を見た。案の定、ドンッという衝撃音と共に周りから困惑の声が上がる。真っ赤な車体が僕に向かって飛んでくる。もう見慣れた光景。別に怖くて体が竦んだりはしない。僕は走って車から逃げると、そのまま車は建物に突っ込んだ。幸い、建物には誰もおらず怪我人はいない。
僕は尻もちをつくと、周りから「大丈夫か!」と声を掛けられて心配される。全身から冷や汗がぶわっと噴き出た。
「回避できた……」
確かめるように自分の手のひらを見て、足を触った。ある。存在してる。影もある。生きてる。僕、生きてる。パァっと顔色が明るくなった。僕、生きてる。ついに、五回目にしてやっと、生を掴めた。この手で。やった。やったぞ!
──チッ
どこかで舌打ちが聞こえた気がした。僕が振り返ると、ギャラリーしかおらず、皆パシャパシャと事故の光景を写真に撮っている。どうせこの後、SNSとかに上げたりするんだろうな。ヤバい、とかそういうコメント付きで。
僕は支えられながら立ち上がると、ふらふらした足取りで事故現場を後にして学校に向かった。これで明日が迎えられる。僕はついに、明日をこの手で掴めたんだ。浮足立つのが分かった。僕は今、この世界で一番の幸せ者なのかもしれない──
見慣れた真っ黒な部屋。
「何でッ!」
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