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 「クラリス嬢、君は私の力を借りてと言ったね。だからあの時起きたことを私もすべて知った上で、どう謝罪すべきなのかを共に考えたいと思うんだ」  「あ……でもそれは……その……あの時のわたくしの発言は、とても皆様にお聞かせ出来るようなものでは……」  クラリスの瞳に溜まっていた涙が瞬時に引っ込んだのを、アリエノールは見逃さなかった。  「そんな事はない。この会場にいる皆は、長く王都を離れていた私よりもずっと君の内面を知っている。今までの君の行いが、すべてを決める指針となるのだ。大丈夫。こんな殊勝な心を持つ君のことを誤解する者などいないさ。皆、そうだろう?」  クロヴィスが周りを囲む貴族たちに向かってそう言うと、皆それを口々に肯定した。  だが、その者たちの口元は一様に歪な弧を描いている。  「さあリゼット、こちらへ」  名を呼ばれたリゼットは、クロヴィスとアリエノールの側に歩み寄った。  (綺麗だわリゼット……でもこれは……)  姉であるアリエノールはリゼットの今の状態を誰よりもよく知っている。リゼットは今、ベランジェ公爵令嬢として戦闘態勢に入ったのだ。  グランベールで知らぬ者はいないベランジェ公爵家の美しき三兄妹。そしてその末妹(まつまい)リゼットは、腰まで真っ直ぐに流れる豊かで美しい金の髪に、猫のように妖しい魅力を放つ青い瞳を持つ美少女だ。  美食に耽る可愛らしい姿が彼女の常だが、一度公爵家の人間として表舞台に立つときはまるで違う。  これだけの人間の注目を集めてもリゼットは怯みもしない。その凛とした佇まいは、次期王太子妃であったアリエノールと並べても見劣りしない。  「ベランジェ公爵家のリゼットでございます。クロヴィス殿下、始めに一つだけ申し上げたいことがございます。よろしいでしょうか」  「なんだ」  「殿下、そして皆様にもお断りしておきたいのですが……わたくしはアリエノールの血を分けた妹です。この度、なによりも愛する姉が受けた仕打ちに対し、私情を挟まずに語るのはとても難しいことです。これからお話する最中、要所要所でその想いが垣間見られることがあるかもしれませんが、どうぞご承知おき下さいませ」  「……だそうだ。リゼット嬢の言うことも至極当然。皆もそれを踏まえた上で聞くように。わかったな?」  貴族達は肯定の代わりに無言で軽く礼を取った。  「ありがとうございます殿下。ではまず……なぜわたくしがレアンドル殿下とクラリス様、そして姉の会食を見守る事になったのか、その理由からお話をさせて頂きます」  そして、まるで開始の合図のように、リゼットの目に光が宿った。          
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