8302人が本棚に入れています
本棚に追加
34
「クラリス嬢、君は私の力を借りてと言ったね。だからあの時起きたことを私もすべて知った上で、どう謝罪すべきなのかを共に考えたいと思うんだ」
「あ……でもそれは……その……あの時のわたくしの発言は、とても皆様にお聞かせ出来るようなものでは……」
クラリスの瞳に溜まっていた涙が瞬時に引っ込んだのを、アリエノールは見逃さなかった。
「そんな事はない。この会場にいる皆は、長く王都を離れていた私よりもずっと君の内面を知っている。今までの君の行いが、すべてを決める指針となるのだ。大丈夫。こんな殊勝な心を持つ君のことを誤解する者などいないさ。皆、そうだろう?」
クロヴィスが周りを囲む貴族たちに向かってそう言うと、皆それを口々に肯定した。
だが、その者たちの口元は一様に歪な弧を描いている。
「さあリゼット、こちらへ」
名を呼ばれたリゼットは、クロヴィスとアリエノールの側に歩み寄った。
(綺麗だわリゼット……でもこれは……)
姉であるアリエノールはリゼットの今の状態を誰よりもよく知っている。リゼットは今、ベランジェ公爵令嬢として戦闘態勢に入ったのだ。
グランベールで知らぬ者はいないベランジェ公爵家の美しき三兄妹。そしてその末妹リゼットは、腰まで真っ直ぐに流れる豊かで美しい金の髪に、猫のように妖しい魅力を放つ青い瞳を持つ美少女だ。
美食に耽る可愛らしい姿が彼女の常だが、一度公爵家の人間として表舞台に立つときはまるで違う。
これだけの人間の注目を集めてもリゼットは怯みもしない。その凛とした佇まいは、次期王太子妃であったアリエノールと並べても見劣りしない。
「ベランジェ公爵家のリゼットでございます。クロヴィス殿下、始めに一つだけ申し上げたいことがございます。よろしいでしょうか」
「なんだ」
「殿下、そして皆様にもお断りしておきたいのですが……わたくしはアリエノールの血を分けた妹です。この度、なによりも愛する姉が受けた仕打ちに対し、私情を挟まずに語るのはとても難しいことです。これからお話する最中、要所要所でその想いが垣間見られることがあるかもしれませんが、どうぞご承知おき下さいませ」
「……だそうだ。リゼット嬢の言うことも至極当然。皆もそれを踏まえた上で聞くように。わかったな?」
貴族達は肯定の代わりに無言で軽く礼を取った。
「ありがとうございます殿下。ではまず……なぜわたくしがレアンドル殿下とクラリス様、そして姉の会食を見守る事になったのか、その理由からお話をさせて頂きます」
そして、まるで開始の合図のように、リゼットの目に光が宿った。
最初のコメントを投稿しよう!