野ざらしを心に風のしむ身かな

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芭蕉が声を震わせながら言うと、 盗賊の一人が高笑いしながら刀を芭蕉に向けてきた。 「はっはっは!言うじゃねえか! そんなに金を奪われたくねえってんなら、俺たちに抗ってみろ!」 複数人の盗賊が芭蕉を取り囲み、 宿泊客たちは皆一様に距離を取って 怯えながら事の顛末を見守っていた。 ——まだ何も見ていないし、一つも歌を完成させていないのに 僕の旅……いや、人生がここで終わるのか。 でも……たとえ死んでも、この荷物を渡したくない。 最期に出来る限り足掻いてから逝きたい—— 芭蕉は盗賊たちと戦う覚悟を決め、 懐に隠し持っていたクナイを取り出した。 里を逃げ出した時、護身用に持ってきた唯一の武器。 伊賀から江戸への道中でこれを使うことはなかったのに、 まさか今ここで使うことになるとは—— 芭蕉が震えながらクナイを握り締めると、 盗賊たちは大笑いを始めた。 「おい、なんだその見慣れねえ武器は?!」 「まさかそんなちっさいモノで俺たちの刀に対抗するってのか?」 「う……」 芭蕉はガクガクと震える足で立ち上がり、クナイを構えた。 「こんなところでは死ねない……。 僕は……理不尽に負けたりしない」 曽良がいなくても、僕一人で戦う—— 「おい、やっちまおうぜ」 クナイを手にする芭蕉めがけ、 盗賊たちが一斉に刀を向けて斬り掛かってきたその時—— 彼らは同時に意識を失い、その場に倒れ込んでしまった。 何が起きているのかと呆気に取られる芭蕉だったが、 次の瞬間急激な眠気に襲われ、自身も意識を手放したのであった——
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