野ざらしを心に風のしむ身かな

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「……ん……?」 暫くして芭蕉が目を覚ますと、そこは旅籠の広間ではなかった。 どこかわからぬ森の中に横たわっていることに気づいた芭蕉が慌てて身体を起こすと、 すぐ隣には自分の荷物が転がっていることに気付く。 良かった——荷物は無事だ! 芭蕉は、荷物の中身が何も盗られていないことに安堵すると、 次に自分はなぜここにいるのかと疑問を持った。 盗賊たちが一斉に斬りかかったところで皆ばたばたと倒れ込み、その直後に僕も気を失って…… 彼らはどうなったんだろう? 広間にいた他の客たちは無事だろうか? 芭蕉がそんなことを考えていると、 背後から草木を掻き分ける音が聞こえてきた。 「ひっ!?」 思わず悲鳴を上げて振り返った芭蕉だったが、 振り向いた先に居た人物を見て、ぴたりと動きを止めた。 「……曽良……?」 もう何年も会っていなかったが、芭蕉にはすぐに分かった。 「曽良——曽良だよね?!」 芭蕉は立ち上がり、そこに佇む男めがけて駆け寄った。 「やっぱり!やっぱり曽良だ……っ!!」 「——金作? どうしてこんなところに居るんだ?」 久しぶりに聞く曽良の声は、低く澄んでいた。 芭蕉は、ようやく再会できた幼馴染を前に思わず涙ぐんだ。 「曽良……、曽良ぁ……!」 「そんなに泣いて……。 よほど、さっきの出来事が怖かったんだな」 「さっきの?——あっ」 芭蕉はハッとして顔を上げ、曽良を見つめて言った。 「もしかしてここまで運んでくれたのって……曽良なの?」
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