野ざらしを心に風のしむ身かな

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「……曽良ぁ……」 芭蕉は思わず感極まり、ぽろぽろと涙を零した。 「っ!?」 それを見た曽良は、ぎょっとした表情を浮かべながら 慌てて懐を弄り手拭いを差し出した。 「なんで金作はすぐに泣くんだろう」 「ごめん……」 「金作が昔っから泣き虫なせいで、手拭いをすぐ取り出せるところに仕舞うのが習慣になってしまったんだぞ。 ——ほら、使いなよ」 「ありがとう、曽良ぁ……」 芭蕉は、久しぶりに旧友に再会できた喜びと ずっと言えなかったことを伝えられた安堵感、 そして曽良がかけてくれた優しい言葉も相まって嬉し涙が止まらなかった。 「……泣いているところ非常にすまないんだが」 暫く号泣しながら手拭いに顔を埋める芭蕉に対し、曽良は少し困ったように告げた。 「盗賊を捕らえ、ここでの任務も終えたことだし 俺は御上に事の顛末を報告しなければならない」 「あっ、うん……」 「久しぶりに金作に会えて、話したいことは山々だが、そろそろ江戸に戻らないと。 金作も旅の途中だろう? もう夜も明けたことだし、賊に襲われることはないだろうから 俺が居なくても大丈夫だよな?」 「……うん」 そっか——曽良は忙しいんだな。 御上お抱えの忍なんだから、そりゃそうだ。 曽良は身体能力も諜報能力も里でずば抜けていたし、幕府が重宝していることだろう。 曽良は里の皆の憧れ。 僕と違って、曽良は皆に求められる存在だから—— 「じゃあ……身体に気をつけて、くれぐれも無理をしないでね」 「金作こそ、道中気をつけて旅しろよ」 「ありがとう。——あっ」 芭蕉は、去り際の曽良を慌てて呼び止めた。 「何だ?」 「忙しいのに、ごめん。 実はちょっとだけ曽良に相談したくて——」
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