野ざらしを心に風のしむ身かな

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「な……何、それ……」 曽良の話を聞いた芭蕉は、顔面を蒼白し唇を震わせた。 「そんな……何人いるかも分からない敵を 曽良一人で討伐せよ、と——御上はそう命じたの?」 「忍組頭から命じられたから直々にではないけれど、御上のお達しには変わりないよ。 いずれにしても命令は絶対だけど」 「そんなのおかしいよ……っ!」 芭蕉は思わず立ち上がった。 「だって曽良は、伊賀の里でも一番に腕の立つ忍だったじゃないか! 里の皆からも一目置かれていて……。 そんな曽良が死んでしまうかもしれない任務なんて 幕府にとっても損失になるじゃないか!」 「……」 「せめて……せめて、お供を付けるべきじゃない?! いくら曽良が優秀な忍だからと言って、組頭は無茶を言い過ぎだよ!」 「——芭蕉」 興奮して血が上っている芭蕉を宥めるように 曽良は芭蕉の肩に手を置いた。 「いいんだよ。元々忍の命は主君に消費されるためにあるものだから。 それに、俺は芭蕉が思うほど優秀な忍でもない」 「違う……っ!どっちも間違ってる! 曽良の命をどう使うかは、曽良の権利だよ! それなのに、こんなのって無いよ……!」 「……芭蕉」 曽良は口元に笑みを浮かべると、困ったように頭を掻いた。 「……まあ、こうなるよな……。 芭蕉は優しいからさ、絶対止めるだろうって分かっていたのに——すまなかった。 俺が芭蕉の顔を見たいなんて思って訪ねたのが間違いだったよ」 「それは間違いじゃないよ! 曽良がここへ来てくれたお陰で、僕は自分のすべきことがわかったから!」 「芭蕉の……すべきこと?」 曽良がきょとんとすると、芭蕉は勢いよく立ち上がって宣言した。 「僕も……、僕もその旅について行く!」
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