野ざらしを心に風のしむ身かな

15/21
前へ
/332ページ
次へ
「っ……何言ってるんだ……」 曽良は呆気に取られた表情で芭蕉を見上げた。 「俳人の振りをして旅をする……?」 「うん!僕と曽良は俳句を詠むために各地を歩いて回る旅人ということにしよう。 道中、実際に名所に立ち寄ったりしてさ」 「……旅と言っても、全く楽しくもなければ、命の保障すらないものだぞ」 「分かってるよ!だけど—— 曽良を一人で行かせて、それこそ今生の別れになってしまったら、僕は一生後悔すると思う」 「後悔だけで済む方がいいだろ。 こんな若さで人生を終えるよりよっぽど良い」 「若いのは曽良もでしょう?! それに……今僕が生きていられるのも、 間者から何度も護ってくれた曽良の存在があってこそ。 ……僕にも、曽良の為に命を張らせて欲しいんだ」 芭蕉は、尚も困惑している曽良をどうにか説得しようと 「そ、それにほら!」 と言って懐を弄り出した。 「一応忍の端くれとして、いつでもクナイや手裏剣を携帯しているんだ!!」 そう言って芭蕉が誇らしげに取り出した手裏剣は、 酷く錆びて所々刃こぼれを起こしており、 もう何年も使うことなく入れっぱなしにしているのが一眼でわかる有様だった。 だが、そんなことには気付かず芭蕉は 「ね?!いざとなったら僕だって戦えるんだから!」 と声高に言った。 それを見た曽良は、暫く黙りこくっていたものの やがて小さく噴き出し、肩を揺らし始めた。 「……ふっ、ははっ。 芭蕉が俺をどうにか説得したい気持ちはよく伝わって来たよ」 「!じゃあ——僕のことも連れて行ってくれる?!」 芭蕉が問いかけると、曽良は少し間を置いたあと、こう告げた。 「芭蕉が俺の頼みを三つ聞いてくれるなら……一緒に来てもいいよ」
/332ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加