野ざらしを心に風のしむ身かな

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「うん!一緒に行っていいのなら——ううん曽良の頼みなら何でも聞くよ!!」 芭蕉が目を輝かせると、曽良は眉を下げて笑みを浮かべた。 「一つ目は、芭蕉が旅をしていて辛くなったら、遠慮なく江戸に帰って欲しい」 「分かった。そんなことにはならないと思うけど」 「二つ目は、敵に遭遇しても、芭蕉は戦わないで欲しい」 「う……。足手まといにならないように頑張るから、僕も——」 「駄目。足手まといだとは思ってないけど、俺の都合に極力巻き込みたくないから。 聞き入れてくれないなら——」 「わ、分かった!僕は絶対戦わない!! ……三つ目は……?」 「三つ目は……、俺が致命傷を負って戦えなくなったら、 迷わず俺を置いて逃げて欲しい」 「……っ!」 芭蕉はごくりと生唾を飲んだ。 曽良を置いて、逃げる——? 「そんなことできるわけ——」 そう言いかけて、口をつぐんだ。 僕がここで「それは聞き入れられない」と答えたら、 曽良は僕をお供させてはくれないだろう。 小狡い考えだけど、ここは嘘でも「分かった」と返すべきだろう。 もしも道中で曽良が怪我をしたら、きっと置いて行くなんてことはできないけれど…… 「分かった。約束するよ」 「本当だな?」 「うん。約束するから——曽良と一緒に行かせて」 「……」 曽良が無言で頷いたのを見た芭蕉は、ぱあっと顔を輝かせた。 芭蕉のペースに乗せられているような気がしてならない曽良だったが、 楽しそうに旅の支度を始めた芭蕉を眺めているうちに 自然と笑みが溢れて来た。
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