徒し世の忍

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「へ……?」 金作がぽかんと口を開けて見上げると、曽良はニッと笑みを浮かべて言った。 「金作に襲い掛かる脅威は俺が排除する。 だから金作が早死にすることなんて有り得ない。 な?心配しないで泣き止めよ」 金作は手拭いで涙と鼻水を拭いながら、 もじもじと尋ねた。 「……どうして曽良は、いつも僕を助けてくれるの? 父上から僕の守護を命じられている訳ではないんでしょ?」 金作は幼少の頃より気が弱く、父も祖父も忍として優秀であったのに比べ 彼は体力が無く、いつも家の中で静かに書物を読んで過ごす子どもだった。 武器の使い方の代わりに読み書きを覚え、 里の会合にも恥ずかしがって姿を見せないため 里の者達は、長の一人息子である金作が 将来伊賀忍者を束ねる頭になれるのだろうかと不安しか感じなかった。 それでも父や里の者達は、金作を優秀な忍に育てようと指導を付けていたが、 自力で忍者としての修行を重ねていた同年代の子ども達からそれをやっかまれるようになった。 大人達は将来の長である金作のことを恭しく扱ったが、 子ども達にとっては実力のない金作が特別扱いを受けていることが面白く無く 仲間外れにされたり、嫌がらせを受けることも時々あった。 しかし曽良だけは、いくら周りの子ども達が離れていっても、罵る言葉を吐いても その輪には加わらず、いつも金作を庇い、面倒を見てくれていたのである。 「——仲間の命が狙われていたら助けるのが当たり前だろ?」 曽良は「とにかく帰ろう」と言って歩き出すと、 金作を家まで送り届けてくれた。 金作は、そんな頼もしい幼馴染の背中に 親しみと憧れの眼差しを向けながら 彼の一歩後ろをついて行った。 それから数年後—— 曽良が幕府の将軍——御上から お抱えの忍としてのスカウトを受け、 伊賀を離れて江戸に行くことが決まったという噂を耳にした金作は、慌てて曽良の元を訪れた。 「曽良!曽良が里を出て行くって父上から聞いたよ! 江戸に行くって本当なの?!」
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