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きちんとした別れもできず、
自分の我儘を曽良にぶつけたあの日が
最後の別れとなってしまった金作は、
自身の幼い言動を悔いた。
それと同時に、曽良が最後にかけてくれた言葉は
まだ自力で何かを成し遂げたことのなかった金作の背中を強く押してくれた。
——そこからの金作は、忍者以外の人生を見つけようと心を決め、
独学で読み書き以外の学問を幅広く身につけたり
伊賀の外の世界について情報を積極的に仕入れたりするようになった。
そして金作が15歳になり、いよいよ次期里長としての任を
父から与えられることが決まった晩——
金作は身の回りの僅かな物だけを持って
密かに里を抜け、江戸へと発った。
忍者としての生き方を捨てる覚悟で飛び出した金作にとって、
江戸でのツテは皆無に等しかった。
江戸には幕府に召し抱えられる伊賀出身の忍者が何人もいたが、
里長の一人息子でありながら抜け忍となった自分が彼らを頼れるはずもない。
曽良ならば自分を助けてくれるのではないか——とも考えたが、
別れ際に曽良が告げた『自分で人生を掴み取れ』という言葉を思い返し
彼に頼るという選択肢は自分の中から捨て去ることを決めた。
江戸で暮らしていれば、いつか曽良とまた会えることもあるかもしれない。
その時に、自分の力で立派に生き抜いている僕の姿を見せたいんだ。
そして曽良に頼るばかりで何一つ恩返しのできなかったことを、
曽良の進む道を応援してあげられなかったことを謝りたい——
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