好きだよ。

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 次の日、私は友達にかばわれて、クラスにいた。私達の間に起こったことを、皆知っていた。私をとがめても、皆、私の応援をしてくれていた。  紫は一人、私達に向き合っていた。 「時期が重なってたことは、いけなかったと思うよ」 「でもさ、桑原も友達がいなさすぎ」 「普通気づくよね?」  友達が、口々に紫に言う。私はひたすらうつむいて座っていた。泣きはらした目を知られたくなかったし。  友達の思いやりある言葉は私を心地よく、またみじめにした。  私はこの場の中心だけど、中心じゃない。ひたすらうつむいて、私は怯えて、怒っていた。 「沢田は、栄太君と付き合うの?」  紫はずっと黙っていた。友達たちの話がとぎれたところで、紫は尋ねた。  私は顔をこわばらせ、友達たちの空気は一気に冷え込んだ。 「別れろってこと?」 「ううん」  攻撃的な問いに、紫は首を横に振った。静かに目を伏せて、うなじに手をやりいつもみたいにけだるく首を傾げた。 「なら、お幸せに」  一言。  立ち上がると、自分の席に向かう。当てつけもなにもない、いつも通りのふわふわした足取りで―― 「何それ」  私のつぶやきに、紫が振り返った。 「自分だけ、いい子ぶるのやめなよ」 「……え?」 「そう言ってさ、本当はむかついてるんでしょ。なら、怒ればいいじゃん」 「いや、もういいんで」  紫の単調な切り返しに、私は体が大きな波にさらわれるような、吐き気を催す激しい怒りを覚えた。 「なら、紫は冷たいよ!」  あたりがしんとなる。関係ない。私はもう何の音も聞こえなかった。紫以外見えなかった。 「私のことも、栄太のことも、どうでもよかったんだよね!」  もう止まらなかった。涙がどっとあふれる。 「紫はずっとそうだった! いつも私ばかり! 髪の色も変えちゃうし、栄太のことも、私まかせで、何も自分で考えないでっ、私の気持ちにも気づかなくて……!」  息が切れる。感情で頭がちかちかするのなんて初めてだった。 「確かに、今回のことは私が全部悪いよ! でも、紫は、ずっとずっと私を傷つけてた! 人のことなんて、何も興味ない冷たい紫には、わかんないだろうけど……!」  涙の向こう、紫が私を見てる。けど、そこには、やっぱり何の感情もなかった。  胸が痛かった。 「紫は結局、誰のことも好きじゃないんだよ! 私は、紫のこと大好きだったから、だからっ」  そう、大好きだった。言葉にすれば、するほど、実感できた。よけいに泣けた。 「だから、振り向いてほしかった。気づいてほしかったのに」 「沢田……」  私の涙は、皆にどう映ったんだろう。みっともない涙のはずなのに、皆私の背をさすってくれた。私は勇気づけられて、最後の言葉を吐く。 「友達だと思ってたのは、私だけだったんだね」  さよなら。さよなら紫。私はくずおれた。  友達たちは、皆紫をにらんだ。紫はポケットに手を突っ込んだまま、何も答えなかった。答えずに、席に戻っていった。 「ありえない」 「冷たすぎ。本当最低」  友達が私の為に怒ってくれた。あたたかかった。
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