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高校の入学式、私は紫と出会った。
紫はとてもきれいな女の子だった。ただ立っているだけなのに、何もかもが違った。周囲にぼかしをかけたみたいに、圧倒的に光っていた。
ボブの髪にかかる光の輪は、いやらしくなくて、その髪に覆われた顔は彫刻のようにきれいだった。白い肌に落ちる影は、いっそ青かった。
誰もがおそれるように、紫に見ほれていた。平然としているのは、当人だけで、紫は退屈そうに小首を傾げ、目を伏せていた。
容姿には自信があった。
人一倍気を使ってきたし、クラスで可愛い女子と言えば、私の名前は必ず挙がった。 けれど、紫を見たとき、それは小さな世界での出来事だったのだと、思い知った。
紫の美しさは、私の世界を崩していった。
崩れた何かは、私に再起を求めた。
「どこ中?」
私は気づけば、紫に声をかけていた。
紫は全く動じなかった。眠りから覚めるように、私に視線を移すと、
「南です」
と答えた。
「そうなんだ。うちは北だよ」
「そうなんすか」
そうしてまた、視線を戻す。私は焦って言葉を続けた。
「てか、めっちゃ髪きれいだよね」
「はあ」
寒気がするほど下手な会話。けど、私は必死だった。
紫は全く動じなかった。
「どうも」
と答えて、視線を戻した。ほんの少しだけ、微笑しながら。
その笑みを見た瞬間、私は打ち砕かれるように、思った。
紫と友達になりたい。絶対に。
絶対に、紫に、私を好きになってもらいたい。
その気持ちは、もはや、渇望と言ってよかった。
紫が目を伏せる、視線を横に流す。何気ない仕草も紫がすると、何か意味ありげなものに感じて、私の胸は苦しいような高揚感で満たされた。
紫、ねえ、好き。
だから、私のことも好きになってよ。
紫への気持ちは、日増しに強くなっていった。
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