好きだよ。

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「なあ、菜摘。お前、桑原さんと友達なん?」  初夏の頃、幼なじみの栄太が私に聞いた。 「な。紹介してよ」  私はうなずくしかできなかった。だって幼なじみだから。そして、その瞬間、私はずっと栄太のことが好きだったことに気づいた。  私は栄太を紫に紹介した。 「大切な友達を紹介してあげるんだから、感謝しなさいよ」  精一杯笑って茶化して、栄太の腕をひじで突いた。栄太は照れくさそうに、明らかに浮かれて紫を見て――なのに、ずっと見ていられないのか顔を逸らすを繰り返していた。  紫は、いつものように、ポケットに手を突っ込んだまま、突っ立っていた。私を見た。私が笑顔で促すと、栄太を見た。栄太は硬直した。紫は動ぜず、図鑑を見るみたいに、栄太を眺めて、それから目を伏せる。 「どうも」   と頭を下げた。栄太ははじかれたみたいに話し出した。紫は浅くうなずきながら、それを聞いていた。  私は紫に気づいてほしかった。  ねえ、私、栄太のこと好きなんだよ、紫。気づいてくれないの?  それとも、気づいてるの?  その夜は、眠れなかった。真っ暗な部屋で、ずっと天井をにらんでいた。 「栄太って、まじいい奴だよ。小さい頃もね」  私はそれから、栄太の話ばかりした。  ことあるごとに、栄太のことを持ち上げて、売り込んであげた。私の声は、上擦ってて、無理してるのが、ばれないか怖いくらいだった。  紫は、音楽でも聞くみたいに聞いていた。時々、うなずくから、聞いているとわかるくらいの熱量で。  それでも時々、私の顔を、あのきれいな顔と目で、じっと見つめるから、私は期待が捨てられなかった。  ねえ、紫、気づいてよ。でも、「気づいてる」なんて、言わないで、そっとわかって、「ごめん、嬉しいけど付き合うとかはまだ」って、栄太を絶対に下げないで言ってよ。  私に対して申し訳ないとかじゃなくて、私のことが好きだから、つき合えないっていう温度を含ませて、ちゃんと断ってよ。ねえ、できるでしょ。  だって、友達だよ? 「二人、絶対お似合いだと思うな!」  それでも、私は二人を応援し続けた。
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