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紫の髪をほめた時、紫は「どうも」と言って微笑した。私はそれが嬉しくて、嬉しくて――すぐに髪を紫と同じ色に、染めた。
「染めたんだ」
紫は興味深げに目を見開いて――
「似合ってる」
と笑った。私は舞い上がらんばかりだった。
でも、紫は次の週に、髪の色を変えてしまった。
「変えちゃったんだ」
「うん。金が入ったんで」
紫は機嫌良さげに、毛先をもてあそんだ。私は残念だった。それ以上に、無性に恥ずかしかった。
けれど、だからこそ、なんてことのないようなふりをして、
「似合ってる」
と笑い返した。紫は笑っていた。
そのときと同じ、同じ。おんなじ。
私は笑って、何でもない風に笑った。
付き合ったってうまくいくかなんてわからないし……そう思ったけど、それでも、うまくいくようにって、基本思ってることにして。
「ゆーかーり。栄太、そろそろ、誕生
日だよ。何かしないの?」
「そうなんすか?」
「ええっ、聞きなよ、もう! 栄太も何で言わないかな!」
私は変わらず、二人の応援をしていた。
「ねえ、栄太はね、こういうの好きだよ」
通販サイトの商品のスクショを見せる。紫はそっと長い首を伸ばして、のぞき込んで「はあ」とうなずいた。
「もう、紫!」
紫はとことん消極的な彼女だった。私が水を向けないと、何もしない。水を向けられることへの不快感もなく、全部私の言うとおりにしていた。
信頼されてるんだ。そう思おうとしたけど、
「電気、部屋を出る前に消してね」
って、頼んでるような気持ちだった。
栄太がかわいそう。
ねえ、紫、何考えているの?
深い茶色の瞳はのぞき込んでものぞき込んでも、奥が見えない。
私のことだけじゃなく、栄太も見ないの? 栄太のことだけじゃなく、私も見ないの?
馬鹿にされてるの? ――私も、栄太も。
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