好きだよ。

9/12
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 それから、私と栄太は二人でこっそり会うようになった。  紫は全く気づかなかった。  あまり気づかないから、私はあえて紫の前で、机にスマホをおいて、栄太とメッセージのやりとりをした。最初は、恐怖と期待と緊張で、頭が一杯だった。 けれど、やっぱり紫はきづかなかった。誰から、とも聞いてくれなかった。  私はひどく自分がみじめで、傷ついていくのを感じていた。  自分勝手なことくらい、わかってる。けれど、紫は、本当に何も疑ってくれなかった。  私と栄太は、紫を裏切ってるの? でも、傷つけているのは紫の方だ。  紫につけられた傷を、私たちはひたすら慰め合った。  ほしかったものは、これだと言い聞かせながら。  栄太とキスしているところを、紫に見られた。  紫はその日、バイトのはずだった。 「なんで」 「……バイト、シフト変わったんで」  嘘だ。それじゃ、栄太に会いに来たみたいじゃない。そんなはずはない。いや、仮に、そうだとしても、たった一回きりの栄太への善行だ。たいしたことじゃない。  なのに、私はひたすら泣いていた。怖かった。終わった、そう思った。  何が終わったかもわからなかった。 「二人は付き合ってるの?」  紫はいつも通り、無表情で、何も変わらない声音だった。怒りも冷たさも、何もなかった。  その瞬間、私の中で、ぷつんと何かが切れた。 「どこまで、馬鹿にすんの!?」  とんでもない声が出た。栄太でさえ、少しひるんでいた。 「うそつき! 本当は気づいてたくせに」 「え」  紫はポケットに手を突っ込んだまま、首を傾げた。そこにいっさいのいらだちも怒りもなかった。私は悔しくて、悲しくて、仕方がなかった。 「気づいてもないなら、むかついてもないなら、もっと悪いっ! 最低っ!」  私はいてもたってもいられなくて、走り去った。栄太が、紫に何事か叫んでいるのが聞こえる。  栄太は、私を追いかけてきてくれた。 「紫と別れた。俺はお前だけだ」  栄太は私を抱きしめてくれた。私は栄太の胸で泣きじゃくった。  うれしかった。でも、それ以上に悔しくて、むなしくて、空虚だった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!