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大輝が呟く。
「ふざけてる……」
「そうだよね。そうして、化けたあとすぐに上位の神様に私の犯した過ちを指摘された。そもそも私は同時に二人以上に化けることは出来ない。あなたを殺しそこねた時点で失敗していた。でも、その神様は優しそうな顔でもう一度チャンスをやると言った。あなたのおばあさんを殺したときと同じことをまた別の人間にすれば許してやると。だから私は殺していた。この五年間、ずっとそれに関わった人を殺していた。すべて終わって神様にこれで許されるか、と聞いたら、後始末は終わっていないと言われたんだ。つまり、あなたを殺せと」
「でも……。じゃあ君はどれだけ人を殺してきたんだ。後悔はしないのか?」
「私はもう既に覚悟を決めている。ずっと前から、私はたくさんの人間の命と生活ではなく、一人の神様だった人間を選んでいる。今更私は後悔しない。もしまたチャンスをやると言われて世界を滅ぼせと言われても、私はあの人のために世界を滅ぼそうとするだろう。私にとってあの人は世界より重い」
喋り終わってため息をつく。あの日のことは記憶の中で熱を持ったまま息をしている。目の前でいちばん大切な人が殺される苦しみなら、私も知っている。
「お前の都合で殺したってことに変わりはないだろ!」
大輝が叫ぶ。どれだけ言葉を尽くしても意見が違えばなにも伝わらない。わたしはそれを知っている。
「何でそんなことを僕に今話すんだよ! 僕のこともこのあと殺すんだろ!?」
大輝は叫び続けている。先程の叫びは、怒りではなく恐怖だったのかもしれない。
「私が神様の提案を飲んだ理由はもう一つある。私は以前禁忌を犯し、刑期が延びているからだ。どんな禁忌だと思う?」
目の前で歯を食いしばっている大輝に向かって問いかける。
「そんなの知るか! ちゃんと僕の問に答えろよ!」
自分を殺そうとしている相手によくこんな強気でいられる。感心する。
「殺すべき人間を殺さなかったからだ。そいつはまだ幼かった。だけど、私の大切な人とよく似ていた。特に、決意を固めて敵に抵抗するときの顔がね。あの人みたいに自分を犠牲にしてほしくなかったからさ。……その子供は、お前の祖父だよ。あの人の妻に化けて横にいるときだけはこの世界で幸せを感じた。でも、その直後にいつも空虚感がやってくる。あれは虚しかったな。あなたも、似ているんだ。だから話そうと思った。罪の償いにはならないし、するつもりもないけどね」
言い終わると、大輝から目を背けて部屋のカーテンを閉める。外から見られてはいけない。後ろを振り向くと、大輝に向かって言葉をかける。
「今からお前を殺す。私は殺すしかない。ごめんなさい」
大輝はいやいやをするように首を振りながら部屋の隅に後退する。けれど、私が化け物の姿になればあっという間に追いついて殺せるだろう。
「あ、いやだ……。やめろおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
だんだん自分の体が大きくなっていくのを感じる。視界に自分の手が入る。大きくて気持ち悪い見た目の醜い手。あの人は私の手を、柔らかくてきれいな手だと褒めてくれた。
手を大輝の首に伸ばす。
私は懺悔の言葉を呟きながら、手に力を込めた。
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