化物の懺悔

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化物の懺悔

 インターホンのボタンに指をあて、軽く押す。それなりに高いマンションだからか、部屋の中からチャイムが聞こえてくることはない。大輝の父親がいい家柄だから、その影響なのかもしれない。  扉が開き大輝が顔を出す。 「久しぶり、友樹。まあ上がってよ」  靴を脱いで部屋に上がる。大輝が鍵を閉める音を聞きながら部屋の中に視線を移すと、窓の外は暗く、その中でいくつものタワーマンションの光が星のようにかがやいている。笑顔を向けて言う。 「久しぶりだな、大輝」  大輝は気まずそうに頬をかきながら、それでもなお 「ああ、遠いのにわざわざありがとう」  と言う。相変わらず優しい人だ。 「おじいさんが亡くなったって聞いた。……ご愁傷様です」  そう告げると、大輝は真顔になって 「気遣いありがとう。今日話したいのは、あの日に関係があることなんだ」  と言った。やっぱり、そうじゃないかとは思っていた。 「うん。俺も話したいと思ってたんだ。取り敢えず、君の話を聞きたいかな」 「わかった。じゃあ話すよ。あの日、裕太は怪物に殺された。それはわかってるよね。僕が話したいのは、そいつについてなんだ。実は、僕は結構前から時々頭の中に変なイメージが流れてくることがあったんだ。まあ端的に言うと、おばあちゃんがおばあちゃんじゃないっていうイメージなんだけど、裕太が殺される前まではそのイメージに違和感があったんだ。……違和感っていうか、この現状とマッチしてないなっていう感覚かな。でも、裕太が殺されたあとイメージと感覚のズレがなくなったんだ。僕のおばあちゃんは、裕太が死んだ川で亡くなってるんだ。死因は知らないんだけどね。それで、最近になって何でズレを昔の自分は感じてたんだろうって思って。考えたんだけど、聞いてくれるかな?」  大輝がこちらを真剣な目で見つめてくる。ああ、また選ばなければならない。決めなければならない。答えは一つしかないのに。 「勿論」 「……僕はね、怪物がおばあちゃんに化けてたんじゃないかって思っちゃったんだよね。突拍子もない事を言っているのは自分でもわかってるよ。でも、考えれば考えるほどそんな気がしてくるんだ。これは僕の完全な想像なんだけどね、僕が感じていたズレはおばあちゃんが本物じゃなかったからじゃないのかなって思って。だっておかしいなって思うんだ、そんなに長い間違和感が残るのは。普通小さい頃に亡くなった人の顔なんて写真を見たりしない限り思い出せない。ましてや、自分の考えてた顔と違う、なんてことは起こらないんだ。じゃあ違和感があるのはどんなときか。まあこれは僕が考えただけのことなんだけど、生きて動いている人が自分の覚えている顔と違う時じゃないのかなって。亡くなった人より生きている人のほうが、想像と現実の間で生まれたズレに対する違和感って大きくなると思うんだ。その考え方でいくと僕のおばあちゃんは違和感がなくなったタイミングである裕太が死んだあとまでは生きていたってことになる。裕太が死んだきっかけは怪物。おばあちゃんは裕太が死ぬまで本当は生きていた。そうすると、おばあちゃんに怪物が化けていて、裕太を殺して裕太に化けたんだって考えたら自然な気がして……」  ああ、そんなことを言われてもこちらが困るだけなのに。大輝、実は頭が良かったのか。いや、思いついたのは偶然だろう。それに抜け穴はたくさんある。 「でも、裕太は死んだじゃないか。こんな事言わせるなよ」  顔をしかめて言うと、大輝は申し訳無さそうにしながら言った。
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