4人が本棚に入れています
本棚に追加
胸の鼓動が早まる。
誰かがわたしの後をつけている。
それに気づいたのは会社を出て二つ目の角を曲がったときだった。
怖い。まさかストーカー?!
わたしは足を早めた。
すると後ろの人影も足を早めた。
早足が駆け足へと変わる。
突然抱きつかれた。
「都花ちゃんっ!僕だよ僕!」
誰かの声に似ているなとおそるおそる振り向くと
彼氏の遼だった。
「あなただったのね。」
わたしはホッと胸を撫で下ろすと同時にちょっと
ムッとした。
「もうっ、ストーカーだと思って
怖かったんだからね!」
遼の胸を軽く叩くと、彼は
「ごめん、驚かせようと思ったんだけど
勘違いさせちゃったみたいだね」
と苦笑いを浮かべた。
そんなところも憎めないなと思いながら歩き始める。
「ところで、奥さんとは別れてくれるのよね?」
「うん、今日離婚届も用意したしバッチリだよ」
子供のように言う彼にわたしは安堵した。
彼とは会社で出会い恋に落ちた。
だけど遼には奥さんがいる。
別れるという約束でわたしと付き合いはじめたのだ。
だけど別れる様子のない彼にわたしは
苛立ちを感じていた。
今日、離婚届を奥さんに渡すのね。
「ふふふ。良かったわ、これで遼と
正式に付き合えるわね」
にっこり笑うと彼も微笑んだ。
「ちゃんと離婚届の判子押してもらうから」
目の前に立ち塞がる影。
わたしと遼は顔を上げた。
その瞬間戦慄した。
だって、その人は……
「朱美!どうしてここに……」
彼の奥さんだ。
「前から怪しいと思ってたわ。思ったとおりだったみたいね」
朱美はうつろな瞳で遼を見ている。
「あ、朱美、ごめん。だけど……彼女のことが好きなんだ!だから、別れてくれ!」
朱美はわたしを見た。
「あなたが、西野都花さんね」
なぜ、わたしの名前を……
「なんで名前を知ってるのか?探偵にあなたと遼の関係を調べさせたときに知ったのよ」
朱美が微笑むが目は笑っていない。
「そうなのね。探偵まで雇ったの。まぁいいわ。
私たちは好きあってるの。だから早く彼をあなたから解放してくれない?」
腕を組んで朱美を見る。
こんな女が遼に釣り合うはずがない。
手に握られているものを見てギョッとした。
それは、包丁だった。
「遼っ!朱美包丁持ってるわ!」
慌てて言うと遼がハッとした表情になった。
「都花ちゃん!」
遼はわたしと包丁を振りかざす朱美の間に入りわたしを守るように両手を広げた。
「ほんと、サイテーな人」
朱美がそう言うと同時に
ズプリと包丁が遼の腹に沈む。
服に赤いシミが広がる。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
遼は口から血を吐き倒れた。
「り、遼っ!!」
朱美は倒れている遼の胸に包丁を突き刺した。
血溜まりが道路にできていた。
「もう、やめてっ!!遼が死んじゃう!!」
遼と一緒に過ごした時間が走馬灯のように
頭を駆け巡る。
「ごめんなさい、わたしが悪かったから!」
朱美は血飛沫のついた顔でニヤリと笑った。
「そうね。罪人には罰が必要だわ。」
遼の胸から包丁を引き抜くと血が噴き出した。
「うっ……」
遼の頭がガクリと横になった。
わたしは遼の元へ行き、息を確認する。
息してない……
ふつふつと怒りが湧き上がってくる。
許せない!許せない!許せない!
「わたしの遼になんてことしてくれんのよ!!っ」
わたしは朱美から血の滴る包丁を奪い取り
朱美に突き刺した。
包丁を朱美の胸から抜くと赤いシミができていた。
朱美はその場に倒れた。
「呪ってやるからね」
明美が血走った目であたしを睨み、息絶えた。
そして我にかえる。
人を殺してしまった……
愛する人も失った。
わたしはどうすればいいの??
その途端、心臓に突き刺さるような痛みを感じた。
「うっ……」
わたしはうずくまり心臓を抑える
刺されてもいないのに白いブラウスに赤いシミが広がっていく。
『呪ってやるからね』
朱美の言葉が脳に蘇る。
鳥肌が立つ。
これは朱美の呪いだ。
わたしは、死ぬのだろうか。
うずくまっているのもしんどくなり、
地面に横になる。
このドキドキは死への恐怖だろう。
わたしは死ぬのだろうか。
薄れゆく意識の中でそんなことを思った。
最初のコメントを投稿しよう!